狙われてますっ!
「……ところでお前、車内は暑いだろう。
 少し脱いだらどうだ?」
とぎゅうぎゅうに着込んだ汐音を心配そうに見ながら求が言ってきた。

 はっ、ではっ、と汐音が脱ごうとすると、求が車をとめてくれようとする。

「あ、いえ。
 もう花火上がり始めてますし。

 見られなかったらいけないので、とまらなくて大丈夫です」
と言いながら、汐音はシートベルトをつけたまま、小器用にコートを脱いだ。

 学生時代、貧相な胸をあまり人様に(さら)したくなくて。

 制服を着たまま体操着に着替えるとか、着たまま脱ぐとか、いろいろと駆使(くし)していた技が、今、此処で()きたようだった。

 持っていて嬉しい技ではないのだが……。
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