政略夫婦の懐妊一夜~身ごもったら御曹司に愛し尽くされました~

「お、おい夏樹、それって……」

「なーんてな。うちの両親は桃香を気に入ってるし、俺も向こうに気に入られてる。今さらどっちかが裏切ったら、子どもだけの話じゃ済まねえんだよ。くだらないこと聞くな」

話しながら会議室から出てくるふたりに見つからないよう、私は咄嗟に隠れていた。

廊下の壁を背にしてその場に座り込み、手のひらで口を覆う。じわりと迫る涙が溢れだし、頬を伝った。

知らなかった。夏樹に、好きな人がいたなんて。

誰だろう。夏樹に想われている女性は。どんな人だろう。
胸をえぐられるような痛みが治まらず、涙が止まらない。

私は恋心を自覚する前も、した後も、夏樹以外に好きになった人なんていなかったのに。
でも、夏樹は違ったんだ。私ではない誰かを好きなのに、しかたなく私と結婚をするつもりでいる──。


「……美砂。本当におめでとう」

私とは全然違う、幸せな結婚をする美砂を前に精一杯の笑顔を作った。

「ありがとう!」

こうなることは覚悟の上で結婚したはずなのに、ふと現実に引き戻される瞬間がある。
私は許嫁の立場を利用して、夏樹の妻になれただけ。
この虚しさから解放されるときは来るのだろうか。

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