政略夫婦の懐妊一夜~身ごもったら御曹司に愛し尽くされました~

焦げた鯛をつつきながら、まだケラケラ笑っている夏樹を盗み見る。
夏樹の言っていることが嘘じゃなければ、私とのあれが彼にとってもファーストキスで、初体験も私とだ。

……本当に?

「どうした桃香。元気ないな」

目の前で、ひらひらと彼の手が舞う。

「う、ううん。元気よ」

さすがは幼なじみというべきか、昔から、私の変化にすぐに気づく。

「鯛ウマイよ。そんなに落ち込むな」

「落ち込んでないわよっ」

「お前の旦那様は寛容だから心配するなって。桃香がなにしたって、愛想尽かさずずっと一緒にいてやってるだろ」

冗談がやけに刺さる。やっぱり今日はいろいろとダメな日らしい。
私は夏樹が不思議でたまらない。どうして幼なじみってだけでずっと一緒にいられるの。
愛想なんて最初からなかったくせに今も無理をしてそばにいるのかと思うと、罪悪感で押し潰されそうになる。

支度を終えてひとりきりのベッドに潜り込んでもそれは消えず、なにも見えないように目を閉じた。
廊下から足音が聞こえ、扉のすぐ外にいる気配がしている。

「なあ。桃香、体調悪いのか?」

私のこの様子は、夏樹には扉を隔ててもわかるらしい。

「……うん。ごめんね」

「いや謝ることねぇから。なにか買ってきてほしいもんある?」

「大丈夫。寝てれば治りそうだから」

「ん。わかった。なんかあったら呼べよ」

離れていく足音にホッと胸を撫で下ろしながらも、私は胸騒ぎがしていた。
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