政略夫婦の懐妊一夜~身ごもったら御曹司に愛し尽くされました~

私と彼の関係は、今までずっとそうだった。
親孝行のために私と許嫁になり、子作りをし、好きな人がいても諦め、今も私より魅力的に感じる女性がいるのに彼は彼女を奥さんにすることができない。

欲しいものを得ようとするたび、彼はそれ以上に多くのものを失っている。きっと私を邪魔に感じているだろう。後悔もしているんじゃないかと思う。

夏樹は大人だから、決してそれを口には出さない。

「桃香。なに考えてる?」

前髪に夏樹の綺麗な指先が触れ、目元を覗かれた。
キュッと唇を縛ったが、堪えきれずに涙が零れ落ちてくる。

「……なんでもない……もう、わからない……」

「ん。なにも考えなくていい。ゆっくり休んで、また元気になってくれ。な?」

抱きついてしまいたい衝動を抑え込み、どうにかうなずいてみせた。
一時間後に夏樹は帰り、この真っ白な部屋は私だけが取り残される。ひとりじゃない。お腹の赤ちゃんも、内側から存在を知らせてくれているのに、なぜか心に滲む傷は消えていかない。

夏樹にしか埋められないものが、私の中にあるらしい。

それを赤ちゃんに求めるたび、私はどうしようもない母親だと、誰かに首を絞められているようだった。

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