政略夫婦の懐妊一夜~身ごもったら御曹司に愛し尽くされました~
それからさらに一か月が経ち、妊娠三十三週となった。
張り止めの点滴に常時繋がれ、安静を徹底した入院生活に切り替えたおかげで、落ち着いて日々を過ごせている。
まだあと三週間、持ちこたえなければならない。それを過ぎれば赤ちゃんに会えるのだ。
絶望の中のたったひとつの光が、私の心を支えていた。
「じゃあ、桃香。お母さん帰るからね」
ミネラルウォーターを冷蔵庫に並べ、空になった紙袋を畳みんだ後、母は簡易椅子を片付けた。
「うん。ありがとう」
平日でも二日に一度ほど顔を出して着替えと洗濯物を交換してくれるのは夏樹だが、母はそれ以外の、ちょっと欲しいなと思うものを持ってきてくれる。
母には私の不安がわかるのか、慰めるような温かい表情を向けてくれる。しかしその原因が夏樹との夫婦関係にあるとは夢にも思っていないだろう。
「もう少しで赤ちゃんに会えるんだから、明るくしていなさい。ほら、従姉妹だって早産だったじゃない? よくあることよ。夏樹くんもついてるんだし」
「……わかってる。すごく楽しみ」
「そうでしょう? お母さんも楽しみよ。でもまずは桃香が元気なら、それでいいんだから。じゃあ、またね」
ジンとくる励ましに潤む目元を隠しながら、私は点滴の刺さっていない右手を振って母を見送った。