政略夫婦の懐妊一夜~身ごもったら御曹司に愛し尽くされました~

首を横に振ることができずにいたが、表情は固まり、完全な拒否の感情が漏れ、そして悟られた。
飯田さんは手を戻し、ゆっくりとうなずく。

「では、洗濯物は課長に後日取りに来るよう話しておきます」

彼女はそれだけ言い残し、また前髪を綺麗に落としながらお辞儀をした。
私も脱け殻のような顔だけのお辞儀を返し、「はい」とだけつぶやく。

変に思われたかもしれない。でも、突如ここへやって来た夫の想い人に、どうしたらいいかわからなかった。

引き戸の前でもう一度頭を下げられ、閉まりきる前にツカツカというヒールの音が廊下を歩きだし、離れていく。

その音が完全に聞こえなくなると、先ほどよりも重苦しい静寂が襲ってきた。

心臓が痛い。血が逆流するような感覚がある。冷や汗も止まらず、手に力が入らない。

発作的な気分の悪さはお腹の子に悪い気がし、すぐに気持ちを立て直そうと深呼吸をする。

ダメだ。頭が痛い。

ストレスという言葉があまりにもしっくりくる不快な感覚が、全身を覆う。
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