政略夫婦の懐妊一夜~身ごもったら御曹司に愛し尽くされました~

このままではいけない。

前向きになったり絶望に落とされたり、こんな気分の浮き沈みを繰り返していては、出産なんてできない。

夏樹と飯田さんのことは考えないようにしようと思ったはずなのに、なぜこんなに気持ちが保てないのか。

お腹を擦りながら、涙が滲みそうな目にぐっと力を入れて堪えた。
母親になるんだ。この子以外のことで、傷ついたりしちゃいけない。

最初からわかっていた。覚悟していた。全部、気持ちを隠して夏樹を手に入れた私の責任でしょう。

「……うっ……」

ベッドの柵を掴む手に力を入れ、足を下ろし、サンダル型のスリッパを履いた。

立ち上がり、呼吸を整えながら扉へと近づいていく。

少し、部屋を出よう。頭の中を真っ白に塗り潰されるようなこの場所に閉じ籠っていたら、どうにかなりそうだ。
白い壁が、いつまでも飯田さんの声を反響させているのだ。

一歩扉を出ると、ナースステーションにいた看護師さんと目が合い、「大丈夫ですか? 飲み物ですか?」と笑顔で尋ねられる。

はい、と汗だくの笑顔で返した。嘘にならないよう、ここから十メートルほどの自動販売機が置いてあるフリースペースへ向かう。

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