政略夫婦の懐妊一夜~身ごもったら御曹司に愛し尽くされました~
開けたスペースには珍しく誰もいないようで、四脚の椅子が備えられたテーブルセットが五つ、空っぽのまま佇んでいる。
そのひとつに、腰を下ろそうと足を踏み入れた。
しかしその瞬間、「ですから、聞いてます?」という鋭い女性の声が響き渡る。
足が止まった。息も止まり、手のひらで口を押さえる。
この声、飯田さんの声だ。
テーブルセットの奥の自動販売機の横で、こちらへ背を向けてスマホで電話をしている。
「私に奥さま関係の頼みごとをするなんて、女心がわかってなさすぎです。こんなの普通、嫌ですよ」
名前が出なくてもわかる。相手は、夏樹だ。
私と会うことが嫌に決まっている? 女心がわかってない? それって、つまり、飯田さんも、夏樹のこと……。
「いつも課長の発散相手になっている私の身にもなってくださいよ。奥さまにぶつけられないからって、まったくもう。とにかく、これっきりですからね」