政略夫婦の懐妊一夜~身ごもったら御曹司に愛し尽くされました~
「……な、なつ、き……?」
立ち尽くす夏樹はうつむき、肩を震わせている。怒りで震えているのかと思ったが、違う。どちらかと言えば、まるで泣いているみたいで──。
「……なんで今さら、そんなこと言うんだよ」
低く掠れた、聞いたことのないほど切ない声が響いた。
「今さらじゃないわ。私はずっと──」
「だったら、もっと前に拒否してくれよ! 機会はいくらでもあったろ! なんでお前を嫁にして、俺の子を身ごもってから、そんなこと言われなきゃならないんだ」
そうだ。その通りだ。返す言葉もない。このタイミングになったせいで、私は彼からいろいろなものを奪ってしまった。
「な、夏樹……」
「もう戻れねえよ、俺は。ただの幼なじみにどうやって戻れって言うんだよ。そんなの無理に決まってるだろ」
「……え?」
どういう意味?
「気持ちなんて、今はまだわからないだろ……変わるまで俺は何年でも待つつもりだったのに……なんで今決めるんだ……ふざけんなよ、マジで……」
夏樹は両手で顔を覆い、足を折ってその場に座り込んだ。予想していなかった反応に、こちらの悲しみは戸惑いに変わっていく。