政略夫婦の懐妊一夜~身ごもったら御曹司に愛し尽くされました~
なんて男なの!と、引っ張られながらも私は一歩前を歩く背中を睨み付けた。
風流に植えられた紅葉の庭。お上品なスーツとワンピースを身に纏い、こうして手を繋いでを歩く私たちは、さぞやお似合いのカップルに見えているだろう。今までずっと、そう見えるように振る舞ってきた。
先ほど夏樹のおじさまが言っていたことは、うちの両親もしょっちゅう口にしている。
〝夏樹くんがいるおかげで、桃香は変な男に引っ掛からずに育ってこれた〟と。
それはそうかもしれない。社長令嬢の私は、夏樹がいなければよからぬ人に狙われることもあったのかも。夏樹のおかげで不自由なく生活してこれた部分はもちろんある。
でも、そうして最後まで夏樹と一緒になってしまって、本当によかったのだろうか。
私たちは、両親に言われるがまま結婚した偽りの夫婦。
夏樹は私を好きでもなんでもないんだもの。
ズキンと胸が痛み、繋がれた手を離す。すると夏樹は立ち止まり、ゆっくりとこちらを振り返った。
御曹司モードの爽やかな表情を向けられ、私は「あ……」と戸惑いの声を出す。
「ん? どうした、俺の奥さん」
首を傾けて覗き込まれる。どうして笑顔なのよ。今度は胸がキュンと疼いて、息が苦しいったらありゃしない。
夏樹の一挙一動に振り回される日々が悔しくてたまらないのに、彼と出会ってから、一度も離れることができずに今日まできてしまったのだ。