死にたがりな君と、恋をはじめる

ま、マジですか、お母さま……。






私は頬をかき、それから田中の様子を伺おうとちらっと目線をやった。









すると、田中は案の定怒っているようで、顔はうつむいていて見えなかったけど、その背中からは黒いオーラが立ち上っていて、私はびくっと肩を震わせた。








「マジで、なんで私があんたなんかの相手しなきゃいけないわけ?……マジでうざいんですけど」




「それはこっちの台詞。取らないでくれる?」






低くうなる田中に負けじと睨むと、田中ははぁっと大きな息を漏らし、どさっとベンチに座り込んだ。







そして、上目遣いにこちらを見つめる。










「……座れば?」




「はい?」







思いがけない言葉につい顔をしかめる。






田中、今なんて言った? 



座ればって? 私に?






困惑していると、田中は指で髪を数本つかんで、くるくると巻いた。










「あんたのことは大嫌いだけど……友馬のことを助けてくれたのは、事実だから」




「へぇ……」








そういう理由かと納得してから、私は遠慮なく田中の隣に腰を下ろした。










「……田中って、意外と家族思いなんだ?」








そう聞いてみると、そんなわけないでしょと顔をしかめられた。








「うるさい。弟なんて面倒なだけよ。いつも面倒を見ることを頼まれるし。今日だって、迷子になって探す羽目になるし……」







田中がそういうので、私は少し首を傾げた。









「いつも田中が面倒を見てるの? 両親共働きとか?」







そう聞くと、田中は横目でこちらを見て、それから前を見直した。












「うち、父親いないから」


「え……」








その瞬間、あたりがしんと静まり返る。





田中はなんでもないような顔をしているけど、まさか、母子家庭だったなんて……。






友馬君の複雑な家庭環境って、それか……。
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