死にたがりな君と、恋をはじめる
……そんなわけない。
――哀れに思う?――
……哀れになんて、そんな風に思うわけがないでしょう。
脳内に田中の声が響き、私は小さく首を振った。
友馬君は、本当にお母さんが、家族が大好きなんだろう。
じゃなきゃあんなふうに笑えない。
父親がいなかろうが、両親が片割れだろうが、笑えるならそれは幸せだ。
だから私は、田中達を憐れむことはできない。
『……奈月はさ、あの親子がうらやましい?』
レイがふわりと浮かんで、こちらを見降ろしてきた。
その黒い瞳でまっすぐに見つめられて、私は黙る。
……私がうらやましがっているかって?
私はレイの言葉に、じっと考え込んだ。
「……別に」
……私に優しい家族なんていたことなんてない。
元からないものをねだっても、意味がないから。
だからあの子たちを羨む理由なんて私には、ない。
私がそう答えるとレイは無言でうなずいた。
『お化け屋敷には結局行けなかったけど……最後、行きたいところがあるんだ』
「へぇ? どこ?」
レイが明るく言うから、テンションを合わせて首を傾げると、レイはパチンと指を打ち鳴らす。
一瞬、服と髪がふわりと浮いて、涼やかな風が周りを包んだ。
一つ瞬きをするうちに景色が切り替わる。
またレイお得意の瞬間移動だろう。
今度はどこに飛ばされたんだと、目をうっすら見開くと、レイがニコニコと明るい笑顔をこちらに向けていた。
『じゃじゃーん、ここ。これ乗らない?』
「え……観覧車?」
前には、巨大な観覧車がどどんと立っていて、私は目を輝かせた。
「私観覧車見るの始めてだ……! うれしいっ」
『ほんと奈月って変なところで子供っぽいよね?』
レイにそう茶化されて、私は観覧車に目を奪われたまま叩くふりをした。
「レイっ。ほらほら、早く並ぼう!」
朝一番に乗ったジェットコースターとは違って、夕方近い今の時間帯の観覧車は流石に混んでいて、私は我先にと列の最後尾に並んだ。
そんな私を、レイは楽しそうに笑って見守っていた。