死にたがりな君と、恋をはじめる
神社は家から数十分歩くとついた。
境内には人ひとりいなくて、私は階段をゆっくりと上る。
階段を上り終わりしばらく歩くと、鳥居が見えて私はふと立ち止まった。
……大きいな。立派な鳥居だ。
少し苔むした鳥居を見上げ、それから浅く頭を下げた。
……失礼します。神様。
そんな気持ちを込めて頭を下げると、黒髪がさらりと肩から滑り落ちた。
しばらく歩くと手水舎が見えて、私は手を清め、口をすすいだ。
――……これで参拝する準備は整った。
私は賽銭箱の前まで歩いていくと鈴を鳴らし、大きく深呼吸した。
五円玉を力を入れず投げ入れる。
チャリンと心地いい音があたりに響いて、そのとたん厳かな雰囲気が流れる。
まずは一度姿勢を正し、深いお辞儀を二回行う。
胸の高さで右手を少し引いて手を合わし、肩幅程度に両手を開き、二回打つ。
手をきちんと合わせ、そっと目を閉じた。
……ここに来たのは、勇気を出すためだ。
今日私は、田中と話そうと思っている。
決めてはいても、実行できなかったなんてそんな情けないことはできない。
でも、体と頭はつながっていなくて。
頭ではわかっていても、体が動かないなんてことはざらで。
私は神様に宣言することで逃げ道を潰しに、この場所に来たのだ。