【受賞&書籍化】高嶺の花扱いされる悪役令嬢ですが、本音はめちゃくちゃ恋したい
 当時はお互いに十歳。特にアルフレッドは、恋愛よりも遊ぶことに興味があったので、マリアとは手も繋がなかった。
 ジルや侍女たちから『恋人の聖地』について聞いていたマリアは、ここで婚約者から『好き』と言ってもらえる展開を夢見て、入念にお洒落してのぞんだのだが……。

「上書きしなければならないような特別な思い出はありませんわ。アルフレッド様は、ハートの木に登ってはいけないと分かると、丘を駆け下りていってしまいましたもの」

 木のまえに残されたマリアは、悲しかった。
 悲しいけれど、公爵令嬢たる自分が人前で泣いてはいけないと分かっていたから、涙目でハートの木を見上げて――。

『――泣かないで、マリアヴェーラ』

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