7歳の侯爵夫人
「王命で不本意な結婚をさせられただけじゃなく、私のせいで、恋人と破局にまで追い込まれていたのですね」

頭を抱える俺に、コンスタンスが声をかけた。
頭を上げれば、彼女の、悲しげな顔が目に飛び込んでくる。

「違うんです、これは…」
「私はなんて罪深いのでしょうね。愛するお二人を引き裂くなんて…。この上は旦那様と離縁して、セリーヌ様に旦那様をお返しして差し上げるほかございません」

「何を言うのです!離縁だなどと…!」
俺は立ち上がり、声を荒げた。
しかし彼女がビクリと怯えたように見上げるので、またしおしおと腰掛ける。

「離縁だなどと…。冗談でも言わないでください」
「冗談ではありませんわ。私とてよくよく考え、やはりそれが一番良い結論だと出した答えですの」

彼女が疲れたように小さく微笑む。
おそらくあまり眠っていないのだろう。
いつものように姿勢はシャンとしているが、その顔には明らかに疲れが滲んでいる。

その顔を見て、俺は胸の奥がギュッと抉られるような感覚を覚えた。
彼女にこんな顔をさせているのは、どこまでも不甲斐ない俺なのだから。

「…待ってください。私は貴女と離縁しようなどとこれっぽっちも思っていない。これは誤解なのです。全て義母の思惑で…」
「ええ。お義母様は私が気に入らないのでしょうね。ずっと侯爵領に閉じこもったまま、侯爵夫人としての務めも果たさない嫁ですもの」

「いいえ、義母はただ私を支配したいだけなのです。それに私は、貴女がここで立派に務めていることを知っています。全ては至らぬ夫である私が原因であることも。どうか、私の話を聞いてください、コンスタンス」

懇願するように彼女の顔を見つめると、彼女は憐れむような目で俺を見た。

「1年以上白い結婚であることは、離縁の理由に出来るそうです」
「…白い結婚…」

思わぬ言葉に、俺は息を飲んで目を見開いた。
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