7歳の侯爵夫人

3

「ねぇ旦那様。おやすみのキスは?」
可愛い妻が、夫の腕の中から甘えるように見上げてくる。
どうやらオレリアンの苦行はまだまだ続くらしい。

「おやすみのキスはね、コニー。それは、子両親が子どもにくれるものなんだよ」
オレリアンは優しく諭すようにそう妻に(うそぶ)いた。

しかしコンスタンスは軽く唇を尖らせる。
「違うわ。恋人同士とか、夫婦がするのよ?だって、旦那様がくれた本にそう書いてあったもの」

そういえば、今までの贈り物の中に少女向けの恋愛小説があったかもしれない。
彼女の精神年齢は幼女並みだが、勉強はかなり進んでいるという話だったので、少し難しい少女向けの本も贈っていたのだった。

(俺は、なんで自分で自分の首を絞めるようなことを…)
オレリアンは一つため息をつくと、優しくコンスタンスの額に口付けた。

「おでこだけなの?」
コンスタンスはさらに唇を尖らせるが、そんな仕草もものすごく可愛らしく、オレリアンは目を泳がせた。
正直もう、本当にこれでいっぱいいっぱいなのだ。

「さぁ、もう眠ろう。あまりお寝坊さんだと、使用人たちに笑われるよ」
「はあい」

コンスタンスは素直に目を閉じ、すぐに、可愛い寝息をたて始めた。
彼女が眠ったら自室に戻ろうと思っていたオレリアンだが、諦めて、そのまま寝ることにした。
朝コンスタンスが目覚めた時、自分を探すかもしれないと思ったからだ。

それに…、オレリアン自身も、妻の隣で眠りたいと、そう思ってしまったからだった。
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