7歳の侯爵夫人
「…寝不足のようだな」

執務室で、主人であるオレリアンに業務の報告をしながら、ダレルは苦笑した。
主従関係ではあるが乳兄弟のダレルは、2人きりの時はいつも敬語では話さない。

「隣に天使がいるのに眠れるか」
そう言うと、オレリアンは両手で自分の顔を覆った。
耳まで真っ赤にする主人を見て、ダレルは呆れたように笑う。

「1年近くも放っておいたくせに、よくもそんなに変われるよな」
「ああ、全くだ」
ダレルの嫌味にも、オレリアンは反論もしない。
この変わり様には、自分が一番驚いているのだから。

「コニーが可愛すぎて辛い…」
未だ頭を抱える主人に、ダレルはため息をついた。
「君は本当にあのオレリアンなのか?近衛騎士団のエースの?」

幼馴染とは言え、いつも凛々しい騎士であったオレリアンがここまでダレルにデレた顔を見せるのは珍しい。
セリーヌと付き合っていた時でさえ、彼はダレルに対して決して惚気たりなどしなかった。
幼妻(中身)は、それほど彼にとって凄まじい威力を発揮しているらしい。

「オレリアン…、君、ロリコンだったのか…」
「バカなこと言うな。コニーは中身は子どもだが、見た目は立派な大人だ!」
「それにしたって、今までのギャップがな…」

嫌味を言ったダレルとて、本気で主人を責めるつもりはない。
この3ヶ月余り、オレリアンが苦しんでいたのは知っている。
1年近くも妻を放っておいた自分を責め、妻が離縁を言い出したことも、妻が事故に遭ったことも、全部不甲斐ない自分のせいだと思い詰めていた。

だが、オレリアンは本気で、全て良かれと思ってやっていたことなのだと、ダレルは理解している。
敢えて新婚早々妻を領地に送ったのは、本気で彼女が王都から離れた方が癒されると思ったのだろうし、別居していたのも、傷つき、未だ王太子を想っているだろう妻を慮ってのことだったのだ。

オレリアンは不器用で、甘くて、バカが付くほど優しいのだ、とダレルは思う。
優しいから、あれだけ義母に嫌がらせを受けても、恋人に捨てられても、許してこれたのだろうと。

だが、つい先日、オレリアンはとうとうあの2人を完全に切った。
幼い頃から一緒にいるダレルが見たこともないような冷酷さを見せた。

全て、コンスタンスを守るためだ。
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