7歳の侯爵夫人
初日の仕事から戻りコンスタンスと一緒に晩餐をとった後、王都の邸での執事となったセイが、急な来客を告げに来た。

「こんな夜遅くに誰が?」
入浴も終え、コンスタンスの待つ寝室に向かおうとしていた矢先の事である。
今日は初日だったし、離れている時間も長かったから、たくさん話したいことがあると妻が言っていたのに。

訝しげに尋ねるオレリアンにセイが告げた名前は、意外なものだった。
「お忍びで、王太子殿下がおいでになりました」

この国の次期国王で、現王太子であるフィリップである。
「何故」と考える余裕も無く、オレリアンは身支度を整え、フィリップ王太子を通してある応接間に急いだ。
もちろん、コンスタンスには伏せたままだ。

部屋に入り、跪こうとすると、フィリップが片手を挙げてそれを制する。
しかし背の高いオレリアンが立ったままでは王太子を見下ろす形になってしまうため、オレリアンは片膝をつき、頭を垂れた。

フィリップは伴のものを2人だけ連れ、本当にお忍びで来たようだ。
1人は護衛騎士、あと1人は宰相の嫡男で、フィリップの側近である。

さて、どういうことなのだろうか。
侯爵に叙されたとはいえ有力貴族でもなく近衛騎士の1人でしかないオレリアンが、直接王太子と関わる案件など思いつかない。
あるとすれば、王太子に婚約を解消された令嬢を妻に迎えたこと。
そして、妻の安寧のために義母との絶縁状に王太子にサインを頼んだこと。
だが考えを巡らすオレリアンにフィリップが言い放ったのは、驚くべき言葉だった。

「コニーを、私に返してはくれぬか」
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