7歳の侯爵夫人
「…コニー…」
フィリップは痛ましげな目をコンスタンスに向ける。
手を差し伸べてくるが、コンスタンスは再びオレリアンの後ろに隠れてしまった。

「おいでコニー。辛かったね」
コンスタンスは顔だけ出して、フィリップを見上げる。

「ほら、君の婚約者だったフィルだ。出ておいで、コニー」
「………」
「君と私は幼馴染なんだ。ほら、よく一緒に遊んだだろう?私と王宮に行って、また一緒に遊ばないか?」

フィリップとしては7歳までの記憶しかないコンスタンスにとって自分はごく近しい人間だと思っているだろうが、コンスタンスにしてみればフィリップは最早見知らぬ青年だ。
コンスタンスはオレリアンの後ろに隠れたまま、警戒心満載でフィリップを見上げる。

それを見たフィリップは何かを覚悟するような顔でオレリアンを見据えた。
「そなたの話は本当のようだな、ヒース侯爵。コニーは幼い子供に戻ってしまったようだ。だが、それであれば尚更、コニーをこんな目に遭わせたそなたにコニーを任せることは出来ない。やはり、コニーは私が引き取らせてもらう」

「………は?」
オレリアンは驚きのあまり目を見開き、絶句した。
一国の王太子ともあろう人物が、なんて理不尽で愚かなことを言うのだろう。

こんな夜中に訪ねて来て、正妃になる女性の許しを得たからと、すでに人妻になった元婚約者を召上げると言う。
まるで、捨てた玩具を再び取り上げるように。
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