7歳の侯爵夫人
そもそも、何故怪我をしたのか。
そして何故、怪我をした自分が何日も、何も関係のないヒース侯爵邸で寝ていたのか。
それがコンスタンスにはわからない。
例えば怪我をしたのがたまたまこの邸の前で、彼は親切にも自分を保護してくれて…、などと、7歳の知能なりに推理してはみたのだが。

とにかく理由はわからないが、この男の人は見ず知らずのコンスタンスを自分の邸に置いてくれているのだから、絶対に良い人なのだろう。

そんなことを考えながら、コンスタンスはヒース侯爵を見ていた。
すると、視線を感じたのか、こちらを向いた侯爵と目が合う。
コンスタンスは思わず、ニコッと笑って見せた。
侯爵の目が驚いたように見開かれる。

(どうして驚くのかしら)
コンスタンスはなんだかつまらなくなって、すぐに視線を逸らした。
ルーデル公爵邸で働く人も、公爵邸を訪ねてくるお客様も、皆、コンスタンスがニコッと笑うと笑って返してくれたのに。

(あの人はどうして私を見て驚くのかしら?)

金髪に蒼い目のヒース侯爵は、パッと見王子様みたいに素敵な人だと思う。
でも…。

(お兄様みたいな気さくな人なら話してみたかったのに…)
微笑み返してくれないヒース侯爵を不満に思ったコンスタンスは、その後父が真実を語り終えるまで二度と彼の方を見なかった。

そう。
自分が本当は19歳で、ヒース侯爵オレリアンが自分の夫と知るまでは。
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