7歳の侯爵夫人
突然母から『恋』などというワードが飛び出したため、エリアスもコンスタンスも驚いて目を丸くした。

「もう時効よね…」などと前置きして、母は話し始める。
「実は私たちは、2人とも国王様…、つまり当時の王太子様の婚約者候補だったの」
「お母様と王妃様が?」
母も王妃も実家は侯爵家である。

「では…、王妃様が王家に嫁がれたということは、母上が負けてしまったということですか?」
エリアスはズケズケと言葉も飾らずに母にたずねた。
しかし公爵夫人は小首を傾げ、
「うーん、そうではないの」
と困ったように微笑んだ。

「実は王妃様はルーデル公爵令息…、つまり貴方たちのお父様に密かに恋をしていたのよ。お父様はお若い頃、それはそれは素敵な方だったのよ?」
「お母様、そこは過去形にしなくても結構ですわ。お父様は今も素敵な紳士ですもの」
ルーデル公爵は壮年期に差し掛かった今もダンディだと貴族の夫人や令嬢たちから人気が高い。

「ああ、そうねぇ。ただ王妃様は実家の思惑もあるし、ご自分も未来の王妃になるため努力していらっしゃったから、夢を捨てきれなかったのね。お父様に対して積極的にアピール出来ないうちに、お父様は私に求婚してしまったのよ」
「あれ?では恋に勝ったのは母上の方ということですか?」
「ええ、まぁ…、そうなるかしらね。お父様ったら私が王太子様の婚約者に選ばれたら大変と、婚約者候補に名前が挙がってすぐに求婚してくださってね。小さい頃から私をずっと好いていてくださったらしくて…」
「はぁ…」
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