7歳の侯爵夫人
嫌…!
オレリアンの心配そうな顔が浮かぶ。
彼と約束したのに。
これから穏やかに近づいて行こうと。
時間をかけて寄り添って行こうと。
そう、約束したのに。

ダメ…!
なんとか正気を保たないと!
ルーデル公爵家の娘として、ヒース侯爵の妻として、醜態を晒すわけにはいかない。

コンスタンスは自由のきかない体を励まし、正気を保つためにはどうしたらいいか必死に考えた。
部屋を見回すと、窓辺の机の上にペン立てがあり、キラリと光るものが目に入る。

…ペーパーナイフだ…。
コンスタンスはソファから転がり落ち、這いずるように、机に近づいた。
机の下まで来ると、椅子を伝い、机の足を伝い、必死に捩り登る。
なんとか這い上がって腕を伸ばし、ペン立てを倒すと、目当てのものが指に触れた。
手繰り寄せ、なんとか手に取り、机の下に座り込む。

もうすぐフィリップが来る。
それまでに、なんとかしなくては…。
コンスタンスは力の入らない右手でなんとかナイフを持って、左の手首に当てた。

正常な意識を保つ…。
コンスタンスには、自分を傷つけることしか、その方法を思いつかなかった。

当てたナイフを、真一文字に横に引く。
鮮血が飛び散り、ナイフが落ちる。
痺れ薬のせいで然程痛みを感じないが、血は流れ続けている。
流れ出る血を眺めながら、コンスタンスは薄っすら笑みを浮かべた。

ああ、もしかしたら深く切りすぎたかもしれない。
でもこれで、フィリップも手を出そうだなどとは思わないだろう。

血は、流れ続ける。
私はこのまま死んでしまうのだろうか。

オレリアン様…。
彼は、悲しむだろうか。
私が死んだら、彼は…。
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