7歳の侯爵夫人

11

王太子の後を追って走る中、オレリアンは彼の叫び声を聞いた。
部屋に飛び込むと、王太子が座り込んでコンスタンスを抱き抱えている。

「コニー!」
オレリアンは走り寄り、コンスタンスの顔を覗き込んだ。
その顔は蒼白で、僅かに目を開くと、弱々しくオレリアンを見上げる。
そしてその手首にはハンカチが巻かれていて、すでに彼女の血で真っ赤に染まっていた。

「コニー!何故…!」
オレリアンは皮のベルトを引き抜くとギリギリとコンスタンスの腕を縛り上げた。

「オレリ…、アン、さま…」
コンスタンスが力なく震えながら、右手を微かに上げる。
オレリアンはその手をしっかりと握り、奪うようにフィリップの腕の中から引き寄せた。
そして、そのまま力強く抱き上げる。

「待て!今、王室の侍医を呼びにやる!」
フィリップが叫んで止めるのを、オレリアンは冷ややかに見下ろした。
「待っているより運んだ方が早い。どちらに向かえばいい?」
「こ、こちらへ…!」
オレリアンを追って飛び込んできた騎士の1人が案内を買って出て、オレリアンはコンスタンスを抱いたまま部屋を出た。

(何故、こんなことに…)
オレリアンは自分の迂闊さを呪った。
コンスタンスが後宮の奥へ消える後ろ姿を見ながら、オレリアンは不吉なものを感じとっていたはずだ。

(やはり、離れるべきではなかった…)
疑問は多々あるが、今はとにかく、コンスタンスの治療が優先だ。
オレリアンはその腕に妻の体温を感じながら、回廊を進む。
侍医のいる部屋までの距離が、やけに長く感じられた。
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