7歳の侯爵夫人
ー昨日フィリップ殿下との婚約が整って。

ーお父様、お母様、それからお兄様とお祝いをして。

ー明日からお妃教育が始まるのだから早めに寝なさい、と言われて。

ー寝て起きたら、見知らぬ侍女?みたいな女性が泣いているのだもの。

コンスタンスは注意深く女性の顔を見つめた。

(…うん。やっぱり、面影があるわ)
コンスタンスは呟くようにある名前を口にした。

「…リア…?」
「…はい」
女性が泣きながら微笑む。

(え?本当にリアなの?)
コンスタンスがリアの顔を凝視する。
コンスタンスの知る侍女のリアなら、まだ20歳前だ。
でも今目の前にいる女性はどう見てもコンスタンスの母よりも年上に見える。

それにさっきから彼女は『奥様』と連呼しているが、本当に彼女がリアなら、『奥様』なんて言葉でコンスタンスを呼んだりしない。
だって『奥様』というのは、コンスタンスの母親で公爵夫人のことではないか。

「リア…。どうして急におばさんになっちゃったの?どうして私をお母様だと思ってるの?私はコニーよ?」

コンスタンスは家族や近しい人から『コニー』と愛称で呼ばれている。
侍女のリアからも、『お嬢様』、もしくは『コニーお嬢様』と呼ばれていたはずだ。

「奥様…?」
コンスタンスの言葉に、リアが戸惑うように瞳を揺らした。

「だから、奥様じゃないって…!……っつうっ!!」
リアを見つめながら体を起こそうとすると頭に激痛が走る。

「ああっ!動いてはいけません!」
「痛い!」

リアに制止されたのに上半身を起こしたコンスタンスは、両手で頭を抱えた。

(……ん?)
手の感触で、どうやら頭に何か巻かれているのがわかる。

(…何これ?包帯?)
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