7歳の侯爵夫人
オレリアンはもう一度コンスタンスの顔を見た。
妻の顔ではあるが、さっきから父親の話に赤くなったり青くなったり、笑ったり怒ったり…、まるで百面相だ。

最初は記憶喪失なんて彼女の狂言かもしれないと思う気持ちもあった。
だって家族は覚えていて夫だけ覚えていないなんておかしいではないか。
それ程、自分は彼女にとって憎むべき相手であって、存在さえ否定したいのかと。

だが…、今、7歳だというコンスタンスを見ていて思う。
あの仕草、言葉遣いは狂言では出来ないだろう。

でも不思議に思うのは、コンスタンスが父親の話を全て受け入れていることだ。
たしかに目覚めてすぐの時は動揺して泣き叫んでいたが、今は全て納得するように静かに聞いている。

7歳だと思っていた自分が突然19歳だと言われ…、全く知らぬ、23歳の夫がいると言われ…。
取り乱しもせず、怒りもせず、こんなに淡々と受け入れられるものなのだろうか。

お妃教育は、10年近くにも及んだと聞いている。
記憶は消えても、彼女の中に、潜在能力としてまだその教育が潜んでいるのかもしれない。

幼な子のように足を揺らしたり目をキョロキョロとさせながらも父親の話を聞くコンスタンスを、オレリアンは興味深く眺めていた。

てっきり、オレリアンが夫だと知った彼女は怯えて泣き叫ぶと思っていた。
だが、彼女の目からはオレリアンに対する嫌悪感は伺えない。

(毛嫌いされては、いないようだ…)
オレリアンはそれだけで、心が少しだけ軽くなったような気がしていた。
< 31 / 342 >

この作品をシェア

pagetop