7歳の侯爵夫人
だが、妻の反応は想像していた通りのものだった。

近づいてきた夫を、コンスタンスはまるで見知らぬ者を見るような怯えた目で見上げた。
そして、思わず触れようと伸ばした夫の手を避け、震え始めた。

しゃくりあげる主人を、侍女リアが抱きしめる。
とうとう声を上げて泣き始めた妻に、オレリアンは混乱した。
彼は、こんなに取り乱す妻を見たことがない。

公爵令嬢でかつて何年もの間お妃教育を受けたコンスタンスは、この国最高クラスの淑女である。
見目麗しく、知性も所作も一級品なのだ。

美しく流れるような銀髪に、透き通るような白い肌。
そして、エメラルドのように輝く翠眼。
お妃教育で身につけた所作は美しく、その唇から紡がれる言葉には彼女の知性と気品を感じさせた。
話す時は口角を微かに上げ、その美しい微笑は相手の心を完全に捉える。

だが…、その彼女の微笑は、顔に貼り付けたようだ、とオレリアンはずっと思っていた。
夫である彼は、妻であるはずの彼女が心から笑うのも、泣き叫ぶのも、見たことがないのだ。

だから今、彼の前で声を上げて泣く彼女に心底驚いている。
いつもは貼り付けていた仮面を取り払ってしまうほど…、それほど今は、夫に怯え、嫌悪しているのだろう、とオレリアンは思った。

でも、仕方がない。
彼女をそこまで追い込んだのは、全て夫である自分のせいなのだから。
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