7歳の侯爵夫人
侯爵領に向かう馬車で、俺たちは向かい合って座った。
彼女は相変わらず背筋をしゃんと伸ばして行儀良く座ってはいるが、その顔にはだいぶ疲れが滲んでいる。
結婚式を挙げたその日のうちにこうして王都を発つのだから、当然と言えば当然だ。

「疲れたでしょう?ヒース領までまだかなりかかります。少し眠られてはいかがですか?」
そう声をかけてはみたが、コンスタンスは小さく首を横に振り、「大丈夫です」と答えた。
まぁ、婚約中に何度か顔を合わせているとは言え名ばかりの夫に、寝顔を見せるほど気を許しているわけもない。
彼女からしたら、こんな騎士風情と狭い馬車の中に2人きりでいること自体恐ろしいのかもしれないから。

ヒース領の邸宅に到着したのは、かなり夜も更けてからのことだ。
しかし、執事のマテオをはじめ、使用人たちは皆あたたかく迎えてくれた。

コンスタンスは新婦のために設えられた部屋に案内され、俺も自室へ行って風呂に入った。
そして、時間を見計らって、新婦の部屋を訪ねた。

いくら気が染まぬ結婚だと言っても、さすがに新婚初夜に花嫁を一人きりで放っておくような男にはなりたくない。
彼女はこれから侯爵家の女主人になるのだから、使用人の手前、恥をかかせるわけにもいかなかった。
初夜に放っておかれた花嫁を、誰が女主人として認めるだろうか。
< 74 / 342 >

この作品をシェア

pagetop