7歳の侯爵夫人

10

『旦那様へ』

彼女の手紙の書き出しは、そんな言葉だった。
実際にはそんな風に呼ばれたことはまだ一度もない。
何度か言葉を交わした時は、彼女は俺を『侯爵様』と呼んでいたから。

薄桃色の便箋は春の訪れを感じさせ、そこに、美しくも柔らかい文字が乗っていた。

『旦那様、お変わりはありませんか?
王都はまだお寒いでしょうか?
ヒース領は日に日に暖かくなり、様々な花が咲き始めています。
色とりどりの花たちは私の目を楽しませてくれ、これからの季節が本当に楽しみです。
いつも書いておりますが、旦那様が私をこちらへ寄越してくださったこと、本当に感謝しております。
ここでは使用人の方たちも領民たちも皆優しく親切で、私は快適に過ごさせていただいております。
これも全て旦那様のお心遣いのおかげだと思います。
領内を歩くと、領民たちの旦那様をお慕いする声がよく聞かれます。
旦那様は忙しくあまり領地に戻られないようですが、善政を敷かれてらっしゃるのですね。
私はそんな旦那様の妻にしていただけたことを、誇りに思っております。
旦那様にいただいたネックレスは普段使うにはもったいなくて大事にしまっております。
こんな、全く妻の務めを果たせない私のためにお気遣いいただき、申し訳ない気持ちでいっぱいです。
旦那様、騎士のお仕事と侯爵としてのお仕事とで毎日お忙しいとは思いますが、どうぞお体を大切にお過ごしください。
お会い出来る日を、楽しみにしております。
コンスタンス』
< 92 / 342 >

この作品をシェア

pagetop