7歳の侯爵夫人
「ハンカチは、結婚されてすぐに作られたものです。手袋は、旦那様のお誕生日に合わせて作られたものですね。刺繍だけじゃなく、手袋自体、奥様が縫われたものです」

マテオの言葉を聞いて、俺は自分の手に手袋をはめてみた。
「…ピッタリだ…」
「邸に残っていた旦那様の手袋を参考に作られたようです。本人の手に合わせて作ることが出来ませんからね」

もう、マテオの皮肉も耳に入らなかった。
皮は厚く、彼女の華奢な指で一針一針刺すのは大変だっただろう。

「恐らくこんなことではないかと思い、今回はお持ちしました」
マテオが恭しく一通の封筒を差し出した。
薄桃色のそれには、あまり見覚えのない、だが、美しい文字で俺の名が書いてある。

「旦那様が、いつ気づき、いつ反省してくれるかと、待っておりました。でも、あまりにも奥様がお(いたわ)しくて…」
我慢出来なくなった…、と、マテオは呟いた。

俺は、彼女からの手紙と贈り物を胸に押し抱いた。

「悪いが、1人にしてくれ」
そう言うと、マテオ親子とダレルは静かに部屋を出て行った。
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