もふもふな聖獣に反対されても、王子は諦めてくれません

「心配には及ばない。聖獣の調査は仕事の範疇だ。オレガの実の調査に、領地の視察も兼ねている」

 いやいや。本気で仕事面の話をしているのではなくて、忍び寄る身の危険を感じているんです!

 どうしてか冗談でもなく本気で嫁にしようとしていると理解した今、これまで以上に貞操の危機が迫っている気がして仕方がない。

「も、もちろんカーティスも一緒ですよね⁉︎」

 そうだ。いざとなったら、カーティスがいる。好かれていないからという理由はこの際目をつぶって、底知れぬ恐怖から守ってもらおう。

「ああ、それはそうだが……。気にするな。よく言って聞かせる」

 なにもかもをお見通しという顔で口の端を上げるエリックは、自然な所作でマリーの手を取り自身の腕の中に引き寄せて耳元で囁く。

「マリーの出生がハッキリするまで、契りを結ぶのはお預けだな」

 無駄に色気が含まれた低い声で囁かれ、全身の毛が逆立つ思いがした。露わになったままだった肩を急いで手で覆い、ブルブルと首を横に振る。

 冗談でなく娶ると言われ、一瞬ときめきかけたのは幻想だ。
 今感じている恐怖の方が、本能的に正しい判断に決まっている。

 王族の下の下の端くれでもいいです。是が非でも、王子の魔の手から逃れられる身分を与えてください‼︎

 マリーは心からの願いを神に訴えた。


fin.
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