もふもふな聖獣に反対されても、王子は諦めてくれません
「あの、恐れ多いのは重々承知しておりますが……ご要望にはお応えできかねます。私はマリア様でもなんでもありません」
「これは失礼した。名前を聞いていなかったね」
名前だけの問題じゃないんですが。
そう思いつつも、遅くなった自己紹介をする。
「マリーです。奇跡を起こす聖母マリア様ではありません。野戦病院で働くただの治療士です」
ブルーサファイアの瞳が真っ直ぐにマリーを見つめ、先ほどとは違った居心地の悪さを感じる。
「野戦病院での仕事は、ただの治療士が行えるものではない。大変だったろう? マリーたちの功績は俺の耳にも届いている。よくやってくれた。感謝している」
突然の称賛に目頭が熱くなる。認めてくれる人がいた。それもユラニス王国の王子が、知っていてくれた。
感激するものの照れ臭くて、マリーはつい茶化してしまう。
「私が野戦病院の職を志したのは、意識のない動物たちなら治療し放題だっていう自分本位な理由ですから」
「なぜ?」
難しい顔をするエリックに、マリーは付け加える。
「私、どうしてか動物に避けられてしまう悲しい体質でして」
「動物に、避けられる……」
呟いた後、エリックは眉間に皺を寄せ、こめかみを押さえて苦しそうな表情を浮かべた。