私が聖女?いいえ、悪役令嬢です!2~生存ルート目指したらなぜか聖女になってしまいそうな件~
1 新しい季節の始まり
春である。

王立クリザンテム学園の校門から校舎までを彩るリラ並木。その間を初々しい新入生たちが、はしゃぎながら歩いてくる。新しい年度の始まりを祝うように白い花吹雪が青空に舞っていた。

去年の私も上級生にはこんな感じに見えたのかしら?

そう去年の同じ季節を思い出し、クスリと一人で笑う少女がいた。

名前はイリス・ド・シュバリィー。これぞゲーム配色といったミントグリーンの髪をなびかせて、校舎の窓から新入生の登校を眺めている。

若葉色の大きな瞳は猫のようにつり上がり、整った顔立ちのせいで少しきつい印象だ。勇者を輩出したこともある騎士の家系の侯爵令嬢で、この世界では悪役令嬢の役回りである。

実はここフロレゾン王国は、乙女ゲーム『白い花が咲くころに』通称ハナコロの中の国なのだ。イリスの通うクリザンテム学園はフロレゾン王国の王立学園で、貴族や魔力の強いものしか入学できない。しかし、ゲームヒロインのカミーユは平民でありながら、強い魔力を持つためにこの学園に入学することとなり、ゲームがスタートする。低い身分の生まれからイジメを受けつつも、聖女の頂点である『聖なる乙女』を目指すストーリーだ。

下町育ちのヒロインが、妖精の住むファンタジーな世界で、貴族のイケメンに力を借り、彼らと愛を育てつつ、魔法を学び恋をする。日本で作られたゲームだけあって、カラフルでアニメ風なデザインだ。風習文化は現代日本風で、身分の差は厳しくない。いわゆるよくある乙女ゲームなのだが、内容は独特だった。

バッドエンドは、すべてヒロインが悪役令嬢に刺殺され、いわゆるノーマルエンド的な友情エンドはない。ハッピーエンドも、ハッピーとは言い切れないいわゆる「メリーバッドエンド」しかなかった。なにしろ、王子に監禁され愛人になる『籠の中の愛』ルートか、騎士に常に鎖でつながれる『愛の鎖』ルートか、兄と心中し千年に目覚める『千年の眠り』ルートしかないのだ。

現実だったら到底受け入れられない結末だが、ヒロインはどのルートにいたっても満たされた笑顔を見せ、ハッピーエンド風な演出もあるので、プレイヤーは「ヒロインが幸せならいいか」と思うのである。
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