5歳の聖女は役立たずですか?~いいえ、過保護な冒険者様と最強チートで平和に無双しています!
 ――僕の土人形は、ほかのどの魔導士よりもクオリティが高い。見た目でなく、中身のことだ。まるで人形自体が意志を持ったように動かすことができる。いや、〝ように〟ではなく、実際意志を持っているのだ。
 これは、僕が持っている特殊能力と言っていいだろう。
 だから、メイが言ったことは間違いではなかった。それぞれがそれぞれの意志を持っている限り、僕の魔法で生まれる土人形に、同じものなどひとつもないのだ。
 なぜ僕がこんな特殊能力を手に入れたのかと言うと、僕の過去に関係しているのだと思う。
 僕は生まれてすぐ両親に捨てられて、フェルリカの小さな村の孤児院で育った。引っ込み思案で誰かと話すのが苦手だった僕は、友達がひとりもいなかった。
 ある日、僕は自分に魔法の才能があることに気づいた。ひとりで黙々と試せるから、すぐに魔法が好きになった。
 土人形を生み出せることを知った僕は、自分の魔法で土人形を作り話し相手になってもらうことで、寂しさを紛らわせていた。
 初めはなにも話さず、僕が動かそうとしなければ動かなかったけど、次第に土人形が勝手に動くようになった。
 僕を絶対傷つけず、僕のそばにいてくれる相手。いつもそんな願いを込めていたからだろうか。僕の作る土人形は、必ずそうなるようになっていった。
 だけど、周囲はそんな僕を気味が悪いと言った。人形に話しかけるなど、普通じゃないと。僕はただ、ひとりの寂しさを埋める手段を、ほかに知らなかっただけなのに。
 気味が悪いと言われたことで、僕は孤児院で土人形を作るのをやめた。
 孤児院を出てひとりで生活するために、魔導士になりギルドに入った。ギルドで依頼をこなせば、ひとりで生活できるくらいの報酬はもらえた。
 しかし、孤児院での日々で僕の性格はいつのまにか捻くれて、自分を守るために口は悪くなった。最初から誰にも好かれないようにすれば、傷つくこともなくなるから。
 そのせいで、パーティーに入っては追い出されるを繰り返したけど、別にそれでよかった。パーティーなんて、依頼をこなすために一時的に作った群れにすぎない。
 最近はなにもやる気が起きなくて、ただ同じ毎日を繰り返す日々。くだらない世界。いつ死んでも後悔はないと思っていたそんな時――メイが僕の前に現れたんだ。
「……どうしてあなたは、そんなに僕の土人形を気に入っているんですか」
 苦い過去を振り返り、僕の口から最初に出たのはそんな言葉だった。
「なんでって、かわいいからです」
 メイはきょとんとした顔で即答した。
 自分で作っておきながらなんだけど、お世辞にもかわいいとは思えない。だが、メイのあまりにも純粋な眼差しに、僕は「……そうですか」と答えることしかできなかった。
「あ! もうひとつありますよ! 今さっき気づいたんですけど、この子、似てるんです」
「誰に?」
 こんなマヌケ顔をした人が周りにいただろうか。
「マレユスさんに! ほら、なんだかほっとけない感じが!」
「……あなたの目に、僕はどう映ってるんですか。……ははっ」
 メイからしたら、僕はこの土人形と同じように見えてるのかと思うと、なんだかおかしくなって笑いがこみ上げてきた。笑ったのなんて何年ぶりだろう。
 肩を震わせながら顔を上げると、一瞬、土人形が僕を見て、メイの腕の中で笑っているように見えた。
「あ、実際は私がほっとかれたら困るんですけど! もっとマレユスさんに魔法を教わりたいし……。引き続き指導をお願いしてはだめでしょうか?」
 不安げな顔をしてメイは言う。本来なら、メイにあきらめてもらうために今日一日だけ引き受けたことなのに、そんな考えは今となってはどこかに消えていた。
 ――僕も信じてみよう。僕の魔法を信じてくれた人のことを。
 ひとりで平気だなんて強がりは、今この場で捨ててしまおう。本当はずっと、僕は寂しかったんだ。こんな小さな子供に、簡単に絆されてしまうほどに。
「仕方ないですね。正式に引き受けてあげましょう。あなたの魔力には、僕も興味がありますし」
「本当ですかっ!? やったぁーっ! では、改めてよろしくお願いします。マレユス師匠!」
 そう言って差し出された手を、包み込むように握り返した。
 ――やっとできたみたいだ。僕にも人間の友達が。年齢差は十歳ほどあるけれど。
 
「メイ、今日も魔法の練習に行きますよ」
 それから、僕はメイの家を頻繁に訪れるようになった。目的はもちろん、魔法の指導だ。
「マレユスさん! はーい! 準備してきますね!」
「俺もついて行こう。メイの魔法を見てみたいしな」
 家に行くと、いつも邪魔ものがついてこようとする。メイの同居人のフレディだ。こいつのことはいろいろ噂には聞いていたけど……実際会うと、ただメイを溺愛している過保護なやつだった。
「あなたみたいな大きな人が来たら邪魔なだけです。来ないで結構」
「……お前、昨日も一昨日も魔法の練習してたよな? メイはお前だけのものじゃないんだ。俺と一緒に依頼をこなしに行く時間も――」
「マレユスさん! 準備できました」
「よし。じゃあ行きましょうか。メイは危なっかしいから、手を貸してください」
「ありがとうございます! マレユスさん!」
「……メイを返せ! このインチキ魔導士!」
 誰がインチキ魔導士だ。この過保護剣士が。
 まずは、メイの同居人であるフレディにわからせてやることが大事みたいだ。メイに必要とされてるのは、あなただけではないですよってね。
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