5歳の聖女は役立たずですか?~いいえ、過保護な冒険者様と最強チートで平和に無双しています!
【助けてくれ】
 ――聞こえた。私に助けを求める声が。もしかして、この声の主は。
「……魔獣さん?」
 私が呼びかけると、魔獣は「ウゥ……」と低い呻き声を上げた。
 魔獣はずっと、〝近寄るな〟と私を威嚇していると思っていたけど――本当はずっと、大きな声で助けを求めていたのだとしたら……。
 フレディとマレユスさんは必死にコボルトと戦っている。この声が聞こえている様子はない。私にだけ、魔獣が語りかけているのかもしれない。
「助けるよ。だから安心して。私は絶対にあなたを傷つけないから」
 私が魔獣の呼びかけにそう答えると、魔獣は暴れるのをやめ、その場に倒れるように横たわった。
 すぐさま魔獣に駆け寄り、毒矢を丁寧に抜いていく。魔獣は痛みに体をばたつかせた。
「ごめん。痛いよね。あとちょっとの我慢だから」
 矢の刺さった傷口を、治癒魔法で治していく。もちろん、解毒も一緒に。
 傷は塞がり、血は止まっていった。先ほど吐血した血も渇き、血の匂いはどんどん収まっていった。
 その効果でなのか、コボルトも落ち着いた状態を取り戻し攻撃をやめ、各々洞窟の奥へと戻っていく。
そんなコボルトを見送りながら、汗を拭いながら一息つくふたりの仲間の姿があった。
「ふたりとも、ありがとう!」
「メイ、よくやった!」
「メイ、上出来です!」
 私とフレディとマレユスが一斉に口を開き、誰がなんと言ったかわからなくなる。とりあえず、全員がお互いを褒めたたえているのだけはなんとなく感じ取った。
「魔獣は大丈夫そうか?」
「うん。容態も落ち着いてきたよ。全部の傷を完全に治すには、もうちょっと時間がかかるけど」
 フレディがこちらに駆け寄ってきたので、魔獣の現状を伝えた。
「……これがメイの聖女の能力ですか。すごいですね。こんなに早く、しかもすべての傷がみるみるうちに治っている。とんだチート能力だ」
 マレユスさんもやって来て、私の治癒魔法を興味深そうに近くで見ながら言った。〝チート〟って、聖女になってから何度か言われたことがある。私としては普通のことだけど、周りから見たら私の能力はとても普通ではないみたい。
魔獣は傷が癒えてやっと心身ともに楽になったのか、目を閉じて眠りについているようだ。私はその間に、魔獣の手当てに全力を注いだ。血で汚れ、ボサボサになっていた毛並みも次第にふわふわとしてきた。
……撫でたらとっても気持ちよさそうだなぁ。眠ってるし、ちょっとくらい触ってもいいよね。
そのまま手を伸ばし、魔獣の体をそーっと撫でてみる。真っ白な毛は想像以上にもふもふで、私はその感触に虜になった。こんなにもふもふな毛は触ったことがない! この手触り、最高すぎる!
「……メイ、なにしてるんだ? それも治療の一環か?」
 傷口とは無関係なところを夢中で撫で続ける私を見て、フレディが首を傾げた。
私が触り過ぎたせいか、魔獣の瞳がうっすらと開き、鋭い眼差しが私のほうに向けられる。
「ごっ、ごめんなさい! あまりにも気持ちがよくてっ……!」
 睨まれたと思い、私はパッと手を離す。
【……いや、オレもとても気持ちよかった。人間に撫でられたのなんて、何百年ぶりだろうか】
 するとまた、頭の中で低い声が響いた。驚いて目を見開く。やっぱりこの声は、魔獣の声だったんだ……!
【どうした? 人間以外の生き物と話すのは初めてか? ……まだ幼子だな。名前はなんという】
「メ、メイっていいます。あのどうして、私は魔獣さんの声が聞こえているのでしょうか?」
「なにっ!? メイ、この魔獣の声が聞こえているのか?」
 魔獣が答えるより先に、フレディが驚きの声を上げる。
「う。うん。さっきも、〝助けて〟って聞こえたの。フレディとマレユスさんにはなにも聞こえない?」
 私が聞くと、ふたりは同時に頷いた。
【メイ、私の声が聞こえたということは、お前には特殊能力があるということだ。もしかすると今回の出来事で、その能力が開花した可能性もある】
「えっ……特殊能力……?」
【そうだ。その能力があれば、魔獣や魔物と契約を結び、従えることもできるぞ】
「け、けいやく? したがえ……? よくわからないけど、今はとにかく魔獣さんと話せてうれしいですっ!」
 せっかく魔獣が説明をしてくれたのに、なんだか難しい話になりそうだったのでぶった切ってしまった。
【ふっ。おもしろい子供だな。それに、オレはまずお前に言わなくてはならないことがあった。……助けてくれてありがとう。メイ。お前がいなければ、俺はだめだったかもしれない】
「いえ! もとはというと――こんなことになった原因は私たちにあったみたいですから。本当にごめんなさい」
 グレッグの執念深い逆恨みのせいで、魔獣もコボルトも、いろんな人たちも巻き込んでしまった。魔獣と会話をしている私をマレユスさんと黙って見守っていたフレディも、状況を察したのか私と一緒に魔獣に頭を下げる。
【顔を上げろ。お前たちは悪くない。悪いのは全部、自分のために悪事に手を染めたあの愚かな男だ】
「ありがとうございます。あの私、魔獣さんに聞きたいことがあって。……どうしてグレッグに反撃しなかったんですか? 魔獣さんがものすごい力を持っていることは、一目でわかります。それなのに、どうしてやられっぱなしだったのでしょうか?」
 魔獣は抵抗こそするが、攻撃をひとつも仕掛けていなかった。私はずっとそれが引っかかっていて、魔獣にそう聞いた。
【――約束したからだ】
「約束?」
【数百年前に、人間と交わした約束だ。〝お互い傷つけあわない〟と。だからオレは、人間を傷つけることはしない】
「でもっ! グレッグたちはその約束を先に破ったのに……」
【あいつらが破ったからといって、オレが破っていい理由にはならない。現に、今までずっと約束は守られていた。たった三人の人間がそれに背いただけだ。オレがそんなことで約束を破ったら、数百年前、魔獣との平和な共存を望み、約束を交わした人間たちに顔向けできない】
 魔獣の言っていることには信念があり、尊重したいと思う。だけど――。
「死ぬかもしれなかったのに……」
 命の危機を感じながらも、約束があったから傷つけなかったなんて。そんなことができるのは、よっぽど意志の強いものだけだ。
【その時はその時だ。オレはそういう運命だっただけだ】
「どうしたらそんなふうに思えるんですか?」
【そうだな。あと三百年生きてみたら思えるかもな】
「ふふっ! ながーい!」
 魔獣も冗談を言うことが意外で、おもわず笑みがこぼれた。
 フレディとマレユスには私の声しか聞こえていないので、なんのこっちゃわからないという顔をしている。あとで魔獣とのやり取りを全部教えてあげないと。
【メイはとてもかわいいな。それに、あの治癒魔法はすごかった。暖かくて、とても優しい……まるで、メイ自身を現しているかのようだった】
魔獣さんは体を起こすと、私の頬に自分の頬をすり寄せた。
頬にあたるふわふわの毛が気持ちいい。こんな幸福感溢れる頬ずりが存在したなんて。やみつきになりそうだ。魔獣から近寄ってくれたのがうれしくて、調子に乗って私も魔獣に抱き着いた。体中をもふもふに包まれ、ここは天国かと思うほどだ。
【こんな小さな手でオレを救ってくれたのか。ならばオレもメイに相応のお返しをしたい】
「お返し?」
 こんな好き放題もふらせてくれている時点で、もうお返しはもらっているんだけどなぁなんて思っていると、魔獣が予想外なことを言い出した。
【オレをメイの従魔にしてくれ。オレと契約を結ぶんだ。そうすれば、いついかなる時でもメイと共に行動し、守ることができる】
「ふぇっ!?」
 今、なんて言った? じゅうま? 
「ねぇ、じゅうまってなに?」
 理解ができず、首を横に向けすっかり傍観者となっていたふたりに問いかけると、フレディが口を開く。
「従魔っていうのは、主人と服従関係で結ばれた魔獣や魔物ことだけど……」
「ふんふん。なんだか、魔獣さんが私の従魔になりたいって言ってる!」
「なっ!? メイがテイマーだったなんて聞いてないぞ」
「……まじですか。魔獣までこの短期間で落としてしまうとは、末恐ろしい子供ですね」
 フレディは動きが停止し、マレユスさんは片手を額に当てため息をついた。
「従魔にしても問題ないかな?」
「問題ないどころか……メイのこれからの冒険者生活にとって、かなり心強い味方になることは間違いないだろう」
 今でも相当心強いけど、味方が増えるなら大歓迎だ。それに、このもふもふを金輪際味わえないなんて――絶対に嫌!
【メイ、どうだろうか? オレと契約を結んでくれるか?】
「はい! 結びます!」
【では、契約の儀式を開始しよう】
「えっ、なにか契約書を書いたりとか?」
【契約書? そんなものはないぞ】
 前世では仕事で契約をとるためにあちこり走り回ったなぁ……。契約と聞いて最初に思い出すのが、そんな苦い思い出だ。
【契約の儀式は簡単だ。主に名前をつけてもらうこと。これで、従魔の契約が結ばれる】
「名前をつける? 私が魔獣さんに?」
【そうだ。メイがオレに名前をつけてくれ。 それとメイは主になるのだから、敬語もやめてほしい。よろしく頼んだぞ】
 こうして、私はトントン拍子に従魔の契約を結ぶこととなった。こんな簡単に決めていいことなのかは不明だが、フレディもマレユスも止める様子はないので大丈夫だろう。それに、この魔獣が悪い魔獣ではないことは、この短時間でじゅうぶんわかっていた。
「うん。わかった! 名前は私が好きなようにつけていいのよね?」
【ああ。オレには名前がない。だから、メイがつけてくれた名前を今日から名乗ることにする】
 名づけなんて、前世でハムスターを飼った時につけて以来だ。名前ってかなり重要な気がするし、適当につけるわけにはいかない。
 私は改めて、魔獣を上から下までじっくりと観察した。見た目はホワイトタイガーのオスで、真っ白な毛に黒い模様。……シロ? トラオ? いや、それだと安直すぎる。
「――あっ」
 魔獣の白い毛並みを見て、私は最近食べたお菓子のことを思い出した。商店街のお菓子屋さんが、外国から仕入れたものを分けてくれた時のことだ。
 焼いたマシュマロと、チョコレートをビスケットで挟んだお菓子。甘さの中に塩気がまじって、口に入れた瞬間幸せが溢れた。
 その白いマシュマロと黒いチョコレートが、魔獣の色にとても似ている。……よし、決めた!
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