5歳の聖女は役立たずですか?~いいえ、過保護な冒険者様と最強チートで平和に無双しています!
 スモアと共にギルドへ向かうと、肩を落としたフレディが出て来た。なにか落ち込むようなことがあったのだろうか。
「フレディ、どうしたの?」
「メイ! いや、マスターとSランク昇格試験の話をしてきたんだけど、なかなか難しそうでさ」
 話を聞くと、今回のSランク昇格の試験は〝迷宮探索〟らしい。
 フェルリカの荒野にある地下迷宮で、そこにある秘宝を持って帰ること。それが達成できれば、フレディは見事Sランク冒険者となる。二年間Fランクでくすぶっていたというのに、ものすごいスピード出世だ。
「ルール上、ひとりで迷宮探索に行くのは危険だから、四人まで同行者を連れて行っていいって言われたんだけど……」
「えっ!? はいはーい! 私も一緒に行く!」
 迷宮探索には興味があったので、私は元気よく手を上げて立候補した。それに、フレディがSランクになったらもらえる報酬はもっとアップすること間違いなしだ。一緒に依頼に行けば、私もおこぼれがもらえてメリットづくし。そのためフレディの昇格試験には積極的に協力したい。
【メイが行くならオレも行くぞ。メイを守るのが役目だからな】
「フレディ、スモアも参加するって言ってるよ」
「はは。ありがとう。ふたりの協力があるのはすごく助かるよ。だけど……シーフがいないと迷宮探索を無事に乗り切れる確率は大幅に減るんだ」
「しーふ?」
 また新しい職業? 冒険者って、一体いくつの職業があるんだ。
「シーフっていうのは簡単に言うと泥棒のことだよ」
「泥棒!? 犯罪じゃないの?」
「聞こえはによくないけど立派な職業だよ。素早い動きで敵のアイテムを盗んだりするのが得意なほかに、罠を作るのも見破るのも上手なんだ。宝箱に仕掛けられた鍵も開けられるし、迷宮探索にシーフの存在は欠かせない」
 さすが冒険者歴の長いフレディだ。迷宮探索も何度か経験しているのだろう。だからこそ、シーフの有無をこれほど気にしているのだと思う。
「ふむふむ。じゃあシーフの人に協力してもらおう! 今のフレディなら、誰に頼んでも協力してもらえるよ」
「俺もそう思ったんだけど、ギルドにシーフはほぼ皆無らしい」
「えぇっ!」
 マスターが言っていた内容によると、ギルドは現在深刻なシーフ不足のようだ。数少ないシーフもまだ駆け出しのようで、そこまでシーフとしての能力値は高くない。迷宮探索に連れて行けるようなシーフは、ひとりもいないという。
「それじゃあフレディ、迷宮探索はあきらめるの?」
 せっかくあともう一歩でSランクに手が届きそうなのに……。
「いや。あきらめないよ。でも今は一旦、有能なシーフがギルドに現れるのを待つことにしようと思う。別に急ぐ必要はないからさ」
「そっか。それがいいかもね」
「その時が来たら一緒に行こう」
「うんっ!」
 フレディと一緒に迷宮探索に行く約束をしていると、ギルドからマスターがひょっこりと顔を出した。
「メイちゃん! ちょうどいいところに! 頼みたい依頼があるんだ」
 そして私を見つけるや否や、中に入るように言った。
「さっきは言ったばかりの依頼なんだが、これをこなせるのはメイちゃんしかいないと思ってね」
「どんな依頼ですか?」 
 マスターに今回の依頼内容を説明される。
 内容は、商店街で盗みを働くカラスの魔物を捕まえてほしいというものだった。
 狙われるのは高価なものではなく、主に食べ物が多いという。隙をつき、すぐに飛んで去って行くから、商人の人たちはお手上げのようだ。
「みんな困り果ててるみたいでな。メイちゃんの能力でカラスの声を聞いて居場所をつきとめ、捕まえることは可能か? なんならいっそカラスをテイムしてくれてもいい」
【このマスター、さらっと無茶ぶりをしてきたな】
【うん。本当に】
 心の中でスモアと苦笑する。
「うーん。あんまり自信ないけど、できるかなぁ? 私、まだテイマーとしては全然だし……」
「頼むよメイちゃん! うちの青果店の被害がいちばん酷くて、本当に困ってるんだ」
 私が曖昧な返事をすると、マスターの隣にいたお兄さんが私の両手を握って切実そうに叫んだ。ずっと顔を伏せてたからわからなかったけど、青果店のお兄さんだったのか。何度か野菜を買いに行ったことがあるので、お兄さんとは顔見知りだ。
「このままじゃ、得意先のカフェにも多大な迷惑をかけてしまうんだ……。大人気のフルーツパフェが作れなくなったら、うちの売り上げにも大きく関わってくるし……」
 ん? カフェのフルーツパフェ?
「お兄さんの得意先のカフェって、時計台の近くの?」
「知っているのか? そうだ。あそこで使われている果物は全部うちのなんだ。だからこれ以上盗まれると、カフェに果物を提供できなくなるんだよ」
 なんてタイムリーな案件が舞い込んできたのだろうか。
 あんな美味しいフルーツパフェが販売停止になるなんてあってはならない。それは絶対阻止しなければ!
「この依頼、引き受けます!」
「本当か!?」
「もちろん! フルーツパフェは私が必ず守ります!」
 そう言って私はお兄さんと見つめ合い、固く握手を交わした。さっきまで自身がないと言っていたけれど、そんな弱音を吐いている暇はない。私は立ち上がるのだ。パフェのために!

 依頼を受けたばかりのその足で、私はスモアとフレディを連れて商店街へと向かった。
 話によると、カラスが現れるのは商店街が比較的繁盛している夕方が多いようだ。店員が客への対応で忙しくしている隙をついて、盗みを働こうって魂胆ね。ずる賢いカラスめ。
「メイ、大丈夫なのか? カラスは飛ぶから、追うのは結構至難の業な気がするぞ」
 フレディの言う通りだ。でも、なにかしら策はあるはず。
【テイマーとしての能力値が高ければ、特定の魔物の声を聞くことができる。カラスの声をよく聞くんだ。あまり距離が離れると聞こえなくなるから注意が必要だぞ。ひとつでも多く、カラスの情報を手に入れるんだ】
 スモアのアドバイスに私は頷いて答える。しかし、私にカラスの声が聞こえるかは試してみないとわからない。今までもスモア以外の声が聞こえたことはなかったので、不安は大きい。
「うわあ! また出たぞ!」
 すると、近くで商人の叫び声が聞こえた。すぐにそちらに目をやると、普通よりも大きなサイズのカラスの魔物が青果店の桃を盗んでいる真っ最中だった。器用に大きな袋にいくつもの桃を詰めると、その袋を口にくわえるバサッと大きな羽を広げる。
 あの桃は今日パフェに乗っていた極上の桃……! それをあんなに盗むなんて!
「カァ! カァ!」
 こちらが近づく隙さえ与えずに、カラスは嫌味な鳴き声を上げながら、オレンジに染まった空へと飛んでいってしまった。
「……一瞬すぎて、なんにも聞こえなかった」
 わかったことといえばカラスの見た目だけである。
「あのカラス、かなり頭が良さそうだったな。みんなが見ていない一瞬の隙をついて、確実に目当てのものを盗んでいた」
「うぅ。思ったよりこれは前途多難かも。帰って作戦を立てないと」
「そうだな。俺も協力するよ」
 青果店の前では、大事な桃を盗まれたお兄さんが嘆いている。その姿を見ると、一刻も早くカラスを捕まえなければと思った。

< 26 / 41 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop