政略夫婦の愛滾る情夜~冷徹御曹司は独占欲に火を灯す~
 けれどもその逆はありえない。私のような目立たない学生に気づくはずもないし、私が高等部しか通っていないと知った時点で完全に見下しただろう。彼女はそういう人だ。

『まさかと思うけど、燎さんが目的で秘書なんてやっているの?』

 以知子さんは、強い視線で私を見つめた。

『いいえ、まさか。私はただ生活のために働いているだけですから』

『生活のため?』

 にっこりと笑みを浮かべて私は『はい。すみません、青扇なのに』と頭を下げた。

 生活のために働いているなんて卑屈な言い方かもしれないけれど、彼女を安心させるには下に出るしかないのである。大切な取引のお嬢さまを、うっかり怒らせては大変だ。

 あからさまに白旗を上げる私を、彼女は満足そうに見下ろしていた。

『そう、大変ね。燎さんと私には縁談があるの。おかしな夢は見ないことね。あなたも青扇なら、よくわかっていると思うけど』

『はい』

『それでは、ごきげんよう。秘書さん』

『ごきげんよう。織田さま』
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