政略夫婦の愛滾る情夜~冷徹御曹司は独占欲に火を灯す~
 笑い合ったあと、忘れないうちにと姿勢を正した。

 何よりも先に言わなきゃいけない。

「専務、ありがとうございました。おかげ様で弟も両親も、本当に喜んでいました」

「そうか、よかったな」

 フッとほころぶ専務の優し気な微笑みも今ではすっかり見慣れて、須王結界などと怯えていたのが嘘のようだ。

 時々難しい顔で書類を睨んでいるけれど、以前のように怖くはない。黒いオーラに見えたのは集中力で、考えこんでいるだけで怒っているわけじゃないと、ようやくわかってきた。

 専務に感じていた怖さは、私の中で頼もしさに変換されている。

 今の彼は学生の頃の孤高の彼とは違う。専務室を出ればいつだって人々に囲まれている。

 昨日も廊下で、専務は営業部の若い社員に声をかけていた。

『契約とれてよかったな。おめでとう』と、自ら握手を求めた。義務的にそんなことをしているようには見えなかったし、営業部の社員はとてもうれしそうだった。

 社会に出て、彼の中で何かが変わったのだろうか?

 ふと思い立つままに聞いてみた。
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