乙女ゲームに転生した華族令嬢は没落を回避し、サポートキャラを攻略したい!
千城香凜、営業職。社畜よろしく、毎日残業のアラサーでした。
仕事に追われた中で素敵なパートナーとの出会いは皆無で、周りは結婚・出産ラッシュ。週末に訪れる人といえば、家事スキルゼロの姉の世話をしにやってくる二歳年下の弟だけ。
年々、恋を楽しむより、家事ができる世話好き男子を嫁にしたい願望が強くなる一方です。
高校からの付き合いの友達いわく、枯れきっている三十路とのこと。
私が悪いんじゃない。人手不足の社会が悪いんだ。給料は増えないのに、仕事だけが増える会社が悪い。
そんな愚痴を吐いていたら、友人は翌日の夜に訪ねてきて、ポータブルゲーム機とソフトをセットで置いていった。「現実がつらいなら、ゲームに逃げるのも一つの手だよ」という言葉とともに。
さすが同じ独身組。慰めの言葉が違うと思い、疲れた体に鞭を打って、ゲーム機の電源をオンにした。そこで、私は運命的な出会いを果たした。
よくある乙女ゲームのモノローグ。
大正時代を舞台にした純愛系で、ヤンデレ系も登場しない。
袴に編み上げブーツという大正らしさはあるが、パラレルワールドなので、史実とは大きく異なる点も多かった。要は、大正時代の雰囲気を楽しむという趣旨らしい。
アラサー喪女が疑似恋愛なんて、と最初は思っていた。
だけど、乙女ゲーム『紡ぎ紡がれ恋模様』は、連日のサービス残業ですさんだ心さえも癒やしてくれた。
イヤホン越しに再生される男性声優の声は、まるで耳元で囁かれているようでドキドキしたし、恥ずかしそうに赤面する顔のイベントスチルはご褒美に等しかった。
ゲーム開始の数日後には、外回りの営業を終え、彼らを攻略することが癒やしとなっていた。
初心者向けという友達のふれこみ通り、乙女ゲーム初心者プレーヤーのために、大事なポイントでは「ゲーム案内役」が必ず登場した。操作方法から攻略の仕方まで、手取り足取り教えてくれた。
親密度のパラメーターを教えてくれるだけでなく、時に一緒に喜び、時に一緒に悲しみ、かけがえのない存在となっていた。
隠しエピソードが配信された日は「ここだけの秘密ですが、何やら新しい逸話が配信されたようですよ。ちょっと気になりません?」と内緒話をしてくれ、バッドエンドで画面暗転すると「……困ってしまいましたね。でも大丈夫。あなたのために、僕がこっそり時間を巻き戻してあげます。他の方には内緒ですよ?」と言ってくれた。
本気で困っていた私には、彼が天使に見えた。
そして同時に、どうして彼を攻略できないのか、と憤りもした。二周、三周とゲームをクリアするにつれ、その不満は募るばかりだった。
――転生した暁には「ゲーム案内役の彼」を落としたい。
そんな野望を胸に秘め、前世の人生はあっけなく幕を閉じた。
社内会議中、いきなり心臓発作でそのまま現世とお別れなんて展開、誰が予想しただろう。毎年行われる会社の健康診断でも異常なしだったのに。
――ああでも、ここがゲームの世界なら、私の望みも叶えられる。
唯一の希望を見出したのもつかの間、フラッシュバックする記憶の波に押され、私の意識は深く沈んでいった。
仕事に追われた中で素敵なパートナーとの出会いは皆無で、周りは結婚・出産ラッシュ。週末に訪れる人といえば、家事スキルゼロの姉の世話をしにやってくる二歳年下の弟だけ。
年々、恋を楽しむより、家事ができる世話好き男子を嫁にしたい願望が強くなる一方です。
高校からの付き合いの友達いわく、枯れきっている三十路とのこと。
私が悪いんじゃない。人手不足の社会が悪いんだ。給料は増えないのに、仕事だけが増える会社が悪い。
そんな愚痴を吐いていたら、友人は翌日の夜に訪ねてきて、ポータブルゲーム機とソフトをセットで置いていった。「現実がつらいなら、ゲームに逃げるのも一つの手だよ」という言葉とともに。
さすが同じ独身組。慰めの言葉が違うと思い、疲れた体に鞭を打って、ゲーム機の電源をオンにした。そこで、私は運命的な出会いを果たした。
よくある乙女ゲームのモノローグ。
大正時代を舞台にした純愛系で、ヤンデレ系も登場しない。
袴に編み上げブーツという大正らしさはあるが、パラレルワールドなので、史実とは大きく異なる点も多かった。要は、大正時代の雰囲気を楽しむという趣旨らしい。
アラサー喪女が疑似恋愛なんて、と最初は思っていた。
だけど、乙女ゲーム『紡ぎ紡がれ恋模様』は、連日のサービス残業ですさんだ心さえも癒やしてくれた。
イヤホン越しに再生される男性声優の声は、まるで耳元で囁かれているようでドキドキしたし、恥ずかしそうに赤面する顔のイベントスチルはご褒美に等しかった。
ゲーム開始の数日後には、外回りの営業を終え、彼らを攻略することが癒やしとなっていた。
初心者向けという友達のふれこみ通り、乙女ゲーム初心者プレーヤーのために、大事なポイントでは「ゲーム案内役」が必ず登場した。操作方法から攻略の仕方まで、手取り足取り教えてくれた。
親密度のパラメーターを教えてくれるだけでなく、時に一緒に喜び、時に一緒に悲しみ、かけがえのない存在となっていた。
隠しエピソードが配信された日は「ここだけの秘密ですが、何やら新しい逸話が配信されたようですよ。ちょっと気になりません?」と内緒話をしてくれ、バッドエンドで画面暗転すると「……困ってしまいましたね。でも大丈夫。あなたのために、僕がこっそり時間を巻き戻してあげます。他の方には内緒ですよ?」と言ってくれた。
本気で困っていた私には、彼が天使に見えた。
そして同時に、どうして彼を攻略できないのか、と憤りもした。二周、三周とゲームをクリアするにつれ、その不満は募るばかりだった。
――転生した暁には「ゲーム案内役の彼」を落としたい。
そんな野望を胸に秘め、前世の人生はあっけなく幕を閉じた。
社内会議中、いきなり心臓発作でそのまま現世とお別れなんて展開、誰が予想しただろう。毎年行われる会社の健康診断でも異常なしだったのに。
――ああでも、ここがゲームの世界なら、私の望みも叶えられる。
唯一の希望を見出したのもつかの間、フラッシュバックする記憶の波に押され、私の意識は深く沈んでいった。