乙女ゲームに転生した華族令嬢は没落を回避し、サポートキャラを攻略したい!
 女学校の多くは海老茶色の袴だが、小紫女学校の指定は藤紫の袴だ。矢羽根を並べた模様の(かすり)の着物が流行っているが、色や柄は各自の自由となっている。
 今日は季節に合わせて撫子が描かれた桃色の着物を選び、藤紫の袴と編み上げブーツを履いた女学生スタイルだ。

(そういえば、乙女ゲームの攻略はどこまで進んでいるのかしら)

 絃乃は教師の声を聞き流しながら、最前列に座るお下げ姿の級友を見やる。
 左右に編み込まれた髪は腰につくほどの長さで、薄紅色のリボンで結われている。紅白の矢絣に袴姿は、パッケージに描かれた姿と同じだ。

(好感度上げが順調なら、専用ルートに入っていてもおかしくないわよね……)

 もうすぐ梅雨入りだ。ゲームは春から開始だったから、攻略対象との出会いは一通り終わっているはずだ。
 当然、ゲーム案内役の彼とも出会っているに違いない。

(うう。時を巻き戻せるなら、あのときに戻りたい……)

 河川敷での出会いを思い出し、渋面になる。
 服装は少し違っていたが、ゲーム画面と同じ人物、同じ声だった。
 だがしかし、びっくり仰天したからといっても、あの言葉選びは致命的なミスだった。幽霊呼ばわりした小娘の第一印象は絶対によろしくない。
 乙女ゲームで脳内シミュレーションは鍛えていたはずだったのに、恋愛の初手を誤った。
 記憶が戻る前だったとはいえ、せめて、もう少しまともな出会いをしたかった。けれど今、己の失態を恥じても時計の針は逆回転などしない。

(ここはポジティブに考えよう。あれだけ印象づけたのだから、記憶には残っているはず。つまり、これから印象を塗り替えていけばいいのよ……!)
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