乙女ゲームに転生した華族令嬢は没落を回避し、サポートキャラを攻略したい!
拳を握って気合いを入れていると、遠くで終業の鐘が鳴り響いた。
教科書を風呂敷に手早く包み、お下げ姿の彼女の前に立つ。記憶が正しければ、今週はお互い掃除当番ではなかったはずだ。
「絃乃さん。どうしたの?」
百合子は桜色の風呂敷を広げているところだった。くりくりとした大きな瞳が絃乃に向けられ、彼女の興味を引きそうな話題を持ち出す。
「甘味処で夏季限定のお品書きが出たんですって。ぜひ寄っていきませんこと?」
「……ごめんなさい。今日はお花のお稽古があるの。だから寄り道はちょっと……よければ別の日に誘ってくださる?」
心底申し訳ないように言われ、慌てて手を横に振る。
「い、いいのよ。気にしないで。また誘うから」
意気込み充分だっただけに肩すかしをくらった気分だが、先約があるなら仕方ない。すごすごと引き下がると、横からおっとりとした声がかかる。
「なあに、甘味処に行くの?」
すみれ色の風呂敷を持った雛菊が小首を傾げる。
小柄でのんびりとした口調の彼女もヒロインの友人だ。資産家の娘で、桔梗が描かれた上等な着物に藤紫の袴姿を合わせている。
束髪と呼ばれるハーフアップした髪に、大きなすみれ色のリボンが揺れていた。
「雛菊……そうだ、あなたは? この後、時間はあるかしら」
「わたくしも、今日は……家の用事があって。明日か明後日なら大丈夫なのだけど」
「そう……。皆さん、忙しいのね」
草木がしおれるように落ち込んでいると、百合子と雛菊が声を合わせて言う。
「明日! ぜひ行きましょう」
「……本当?」
百合子は大きく頷き、雛菊は胸に手を当てて断言する。
「約束しますわ。ぜひ三人で食べましょうね」
「よろしいんですの? 用事があるなら、そちらを優先していただいても……」
気を遣わせてしまったのかもしれない。そう思って予防線を張っていると、百合子が唇を尖らす。
「親友との約束のほうが大事ですわ。そうよね、雛菊さん?」
「ええ、もちろん。これはもう決定事項ですので、簡単には覆りません。だから楽しみにしていてくださいまし」
親友二人の笑顔の圧力に、絃乃はしぶしぶ頷いた。
教科書を風呂敷に手早く包み、お下げ姿の彼女の前に立つ。記憶が正しければ、今週はお互い掃除当番ではなかったはずだ。
「絃乃さん。どうしたの?」
百合子は桜色の風呂敷を広げているところだった。くりくりとした大きな瞳が絃乃に向けられ、彼女の興味を引きそうな話題を持ち出す。
「甘味処で夏季限定のお品書きが出たんですって。ぜひ寄っていきませんこと?」
「……ごめんなさい。今日はお花のお稽古があるの。だから寄り道はちょっと……よければ別の日に誘ってくださる?」
心底申し訳ないように言われ、慌てて手を横に振る。
「い、いいのよ。気にしないで。また誘うから」
意気込み充分だっただけに肩すかしをくらった気分だが、先約があるなら仕方ない。すごすごと引き下がると、横からおっとりとした声がかかる。
「なあに、甘味処に行くの?」
すみれ色の風呂敷を持った雛菊が小首を傾げる。
小柄でのんびりとした口調の彼女もヒロインの友人だ。資産家の娘で、桔梗が描かれた上等な着物に藤紫の袴姿を合わせている。
束髪と呼ばれるハーフアップした髪に、大きなすみれ色のリボンが揺れていた。
「雛菊……そうだ、あなたは? この後、時間はあるかしら」
「わたくしも、今日は……家の用事があって。明日か明後日なら大丈夫なのだけど」
「そう……。皆さん、忙しいのね」
草木がしおれるように落ち込んでいると、百合子と雛菊が声を合わせて言う。
「明日! ぜひ行きましょう」
「……本当?」
百合子は大きく頷き、雛菊は胸に手を当てて断言する。
「約束しますわ。ぜひ三人で食べましょうね」
「よろしいんですの? 用事があるなら、そちらを優先していただいても……」
気を遣わせてしまったのかもしれない。そう思って予防線を張っていると、百合子が唇を尖らす。
「親友との約束のほうが大事ですわ。そうよね、雛菊さん?」
「ええ、もちろん。これはもう決定事項ですので、簡単には覆りません。だから楽しみにしていてくださいまし」
親友二人の笑顔の圧力に、絃乃はしぶしぶ頷いた。