桃色溺愛婚 〜強面御曹司は強情妻を溺愛し過ぎて止まらない〜


杏凛(あんり)のおすすめなのか、この激辛冷麺は。それにしても、意外だったな……」

「意外なのはこのメニューだけですか? この店の外観や雰囲気などには匡介(きょうすけ)さんは少しも驚かないの?」

 私がこの店に誰かを連れて来れば、杏凛のイメージではない。貴女には似合わないから別の店にしなさいと言われてきた。私は自分の好きな店を食べ物を選んでいるだけなのに。

「……何故だ? こんないい店なんだ、君が俺をそんな特別な場所に連れてきてくれた事に驚いている」

 匡介さんは嘘をついたりしない、適当に誤魔化せばいいことでもそんな事は出来ない人。あの夜の事もきちんと話してはくれないままだけど、私を騙そうとしたりはしなかった。
 だから、これもきっと彼の本音なのでしょうけれど……その驚いている理由がそんな事だなんて。

「別に特別な理由なんてありません、たまたまこの店の激辛冷麺が食べたくなっただけで」

「ああ、分かってる。それでも俺は……杏凛が自分の事を教えてくれたことが嬉しいんだ」

 本当に喜んでいるのかちっとも分からない相変わらずの強面なのに、その言葉は私の心をじわじわと温かくしていく。分かってる、匡介さんがそう思ってくれている事が私だって嬉しいのだと。
 だからと言って素直に今の気持ちを匡介さんに伝える事は出来なくて……

「えっと……食べましょう。本当にここの冷麺は美味しいので」

「ああ、そうだな」

 そのまま激辛冷麺を涼しげな顔で食べ終える匡介さんに驚きながら、私も久しぶりのこの店の看板メニューを十分味わったのだった。


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