冷徹弁護士は奥手な彼女を甘く激しく愛し倒す


「私はたぶん、あの頃、自信とかそういうもの全部が粉々で、誰かに求められてるっていう実感が欲しかったんです。その人はそれに気付いて、わかりやすく与えてくれただけにすぎないから……だから、治療だし、その人が私にくれる全部が親切心からなんです」

岩倉さんが私を大事に大事に抱くのは、そういう理由だ。
そこに岩倉さんの熱はない。

だからこそ、私は大事に抱かれるのが怖いんだろう。

大事にされるたび、私のための行為なんだと思い知らされるようで……そこに岩倉さんの意思や感情はないのだと言われているような気持ちになる。

岩倉さんに触れられるのは嬉しい反面、そんなどうしようもない不安に駆られる自分に最近気付いた。

体調は間違いなく回復に向かっているのに、新しい不安が生まれ戸惑っているのだと話すと、江並さんはキョトンとしたあと、ふっと笑みを浮かべた。

「出穂さんは、すごく好きなのね。岩く……その人のことが」
「え?」
「好きだから不安になるんでしょ? 自分だけが恋愛感情を持っていて、相手にはそれがないんじゃないかって。あれ? 違った? 私はそういうふうに受け取ったんだけど」

首を傾げる江並さんに、しばらくぽかんとしたままなにも返せなかった。

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