冷徹弁護士は奥手な彼女を甘く激しく愛し倒す
好きって……私が、岩倉さんを?
恋愛感情として?
男性として、好き?
だって、そんなのありえないと思いながらも、心のどこかでは否定しきれない自分がいて驚く。
今まで恋愛経験がないわけじゃない。片思いの経験だってあるし、恋人がいた時期だってあった。だから、恋がどんなものかは知っている。
それなのに、岩倉さんをその対象として今まで見たことがなかったのは、恋愛感情とは違う部分に岩倉さんの存在を置いていたからだった。
私にとって岩倉さんは、恩人で感謝してもしきれない人だ。
どっしりとした精神力の持ち主で、だから私がいくらボロボロになって寄り掛かってもしっかり支えてくれる。
言葉がきついときはあっても、本心にはいつも優しさを持っている岩倉さんとの時間は癒されたし落ち着く。
触れ合う肌はいつも温かくて心地よくて、安心できた。
私は岩倉さんを特別な人だとは認識しながらも、恋とは繋げなかった。
でもそれはたぶん、恋愛に割く心の余裕がなかったからで……本来の私は、好きでもない人と一緒のベッドで眠れるタイプでも、ましてや体を重ねられるタイプでもない。
そこに気付いてしまったら、もうダメだった。
たとえば、筧さんにくっつかれている岩倉さんを見たとき、心の奥の方がチリッと焼けるように痛んだこととか。
たとえば、岩倉さんにキスされたとき、浮かれた音を立てていた心臓だとか。
岩倉さんがたまに見せてくれる柔らかい微笑みを見ただけで、心からどばどぼ延々と溢れ出ていた幸福感だとか。
それまで、あれ?とどこかで気付きながらもスルーしてきたことが一気に主張し出し、これは恋だと告げる。
今まで岩倉さんからもらった感情たちが一斉に〝恋〟と書かれたプラカードを持ち上げたみたいに、私の中がぎゅうぎゅうでパニックだった。