食リポで救える命があるそうです
・
・【百貨店】
・
今日はリュートさんと、リホウの百貨店へ行くことになった。
第一の目標は私の虫歯菌を殲滅させる魔法を掛けてもらうこと。
第二の目標は私に合った魔具を買うことだ。
魔具とは魔法を使う時に、補助する道具のことで、杖が一般的。
だけどもそれ以外にも、小型で使いやすい道具もあるので、とりあえず見に行くという話だ。
リホウ。
私とリュートさんの家の近くにある村とは全く違った。
普通に車みたいなモノも走っているし、何よりも電柱のようなモノがあった。
どうやら電気が使われているらしい。
道も整備されて、全ての道が碁盤の目のように整理整頓された街並み。
リホウは壁に囲まれた大都市で、リホウの門の前まではリュートさんの風魔法で移動し、門をくぐってからは歩いて移動している。
リホウの百貨店にはすぐ着いた。
割かし門の近くにあったからだ。
リホウの百貨店は木造でなくて鉄筋だった。
ちゃんとこれくらいの科学力はある世界なんだと初めて知った。
「相変わらず何階もあるなぁ、じゃあ入るか、ユイ」
「そりゃ何階もある建物は階数が減ったりしないでしょ」
「揚げ足取りばかりだな、ユイはぁ」
何か不満げにそう言ったリュートさん。
いやでもいちいちバカっぽい発言をするリュートさんのせいだと思うんだけどな。
百貨店に入ると、お店がいっぱい並んでいた。
活気に溢れて、みんな声を出して客引きをしている。
魚市場か、と思いつつ、私は歩き出……いや歩き出す前に、
「リュートさん、百貨店の看板ってどこですかね? どこに何があるかのフロアマップというか」
「そんなモノは無いぞ、フロアの店はすぐにコロコロ変わるからな」
「えっ、そんな売り上げがシビアな世界なんですか?」
「何を言っているんだ、場所によって有利不利が無いように、毎朝くじでどこの場所に出店するか運で決まるからだろ」
「そんな来る人にとって不便な世界があったのか……」
いちいちカルチャーショックがあるな、この世界。
いやまあこの百貨店だけかもしれないけども、でもここだけ、といった感じでもないんだよな、リュートさんの雰囲気を見ると。
じゃあ
「探さないといけないということですか?」
「そう、宝探しみたいで楽しいだろ」
楽しいと思えばそうかもしれないけども、同時にこの世界の人たちって暇なんだなとも思った。
まあ確かに度々行く村も、働いている人と働いていない人の差が激しかったような気がするし、そういうもんなのかなぁ。
私とリュートさんは、まあ百貨店を隅々まで歩いた。
でもなかなか虫歯菌殲滅屋さんも、魔具のお店すらない。
魔具のお店くらい、たくさんあるイメージだったけども、変な草を売っているお店ばかりだ。
『そんなに苦くない草』とか『言うほどクサくない草』とか、全部いらねぇよみたいな草を売っているお店ばかり。
何でだろうと、そのことをリュートさんに話すと、
「魔具も虫歯菌殲滅も高価だから、あんまり無いんだよ」
「というか、リュートさん、お金を持っているんですか?」
「お金というかモンスターを倒した時に手に入る魔石をいっぱい持ってきてるぞ。それで代用が利くし」
いやでもそれだと小回りが利かないのでは、と思ったけども、リュートさんほど強ければいくらでも手に入れられるだろうし、それでいいかとも思った。
どう考えてもどんぶり勘定すぎるけども、まあリュートさんにそんな社会性を求めちゃいけないと思う。
リュートさんはキョロキョロ周りを見渡しながら、歩くので、私もそうしていると、床に座って全く動かない女の子がいた。
よくよく見ると泣いているので、私はビックリしながら、
「どうしたのっ! 迷子になったのっ?」
と話し掛けると、その女の子はこちらをくるりと向いて、
「どうやらそのようです」
と答えた。
何だその受け答え方と思いつつも、私は女の子の前でしゃがんで、
「じゃあ探してあげる!」
するとリュートさんが参ったなといった表情をしながら、
「そういう安請け合いは最終的に損するぞ」
「いや困っている女の子を見過ごせないじゃん!」
「動かずに待つということも戦法の一つということだよ、俺もよくやったよ、ユイが来る前は」
「いやその時のリュートさんは多分大人ですよね! 大人は迷子にならないで下さいよ!」
「なるだろ、でも忍耐力で突破した」
そう自信満々に仰け反りながら答えたリュートさん。
いや全然褒めたりはしたくないけども。
そんなことよりも、
「お嬢ちゃん、とりあえずこれを舐めて休んで」
私は創造魔法を使うため、手に魔力を込め、
「カラフルな色が渦巻いて、それぞれ果実の香りがついていて、舐めれば勿論甘くて美味しい、橙色はさわやかが香るオレンジ、緑色はスキッとしたフレッシュが香るマスカット、赤色は甘酸っぱさが香るイチゴ、そんな棒のついた大きな大きなペロペロキャンディ! いでよ!」
ペロペロキャンディを出現させ、棒のところを女の子に手渡し、
「この棒じゃない部分を舐めてみて、甘くて美味しいよ」
女の子はおそるおそるペロペロキャンディを舐めると、すぐさま顔をニッコリさせて、
「どうやらおいしいようです!」
と声を上げた。
それからどんどんペロペロキャンディを舐め始めた女の子。
ちょっとペース早いなと思いつつも、すごい勢いで舐めていく女の子。
その度に、
「どうやらすごい! どうやらすごいことになりました!」
と謎の”どうやら”口調で実況をする女の子にリュートさんはやれやれといった感じに、
「ユイの力なら当然だよな、というわけで俺にも出してくれよ」
とさわやかに言い切った。
何がやれやれなんだよ、と思いつつ、一応リュートさんの分も出すと、リュートさんはめちゃくちゃテンション上がりながら、
「こ! こんなもぉん!」
と叫んでから、めちゃくちゃ舐め始めた。
何だよリュートさんの食べ始める直前の台詞、何か怖かったな、と思いつつ、二人がペロペロしているところを見ていると、一人の男性が近寄って来た。
あっ、ペロペロキャンディこれからいっぱい作らないといけないのかなと思っていると、その男性が、
「チヨコ! こんなところにいたのか! 珍しく声がするなと思ったら、やっぱりこのフロアにいたのか!」
すぐさま女の子が、
「どうやらパパだ! どうやら見つけてくれたようです!」
「きょっ、今日はなかなか声を張っているな、そんなテンションが上がることがあったんだな」
何かちょっと引いているくらいの男性。
多分娘の、言動に引くなよ。
でもどうやら、ペロペロキャンディを食べたことにより心が躍って、よく喋るようになり、その声で分かったらしい。
確かに迷子の時は声を出したほうが見つかりやすいもんなぁ。
男性は娘とリュートさんを交互に見て、
「何か、その食べ物を買って下さったんですね、ありがとうございます」
そして男性と女の子は一緒に手を繋いで、その場を去った。
私はリュートさんに、
「見つかって良かったですね」
「俺もこんなモノが舐められて良かったぜ」
とカッコつけたリュートさん。
いや全然カッコ悪いけども。
ペロペロキャンディってどちらかと言えば子供の食べ物だし。
まあそんな概念も無いか。
というか、
「早く魔具のお店と虫歯殲滅魔法のお店、見つけましょうよ」
と自分で言った時に気付いた。
そうだ、声に出せばいいんだ。
私は大きな声で、
「すみません! 魔具や虫歯殲滅魔法のお店を知っているお方はいませんか!」
と叫んでみると、目の前にいた女性が、
「そういう高価な店は地下ですよ、地下内で動くことはありますけども、基本的に地下から動かないですよ、高価な店は。というかそんなこと知らないで、ちゃんとお金あります?」
ちょっと知識のマウントとられてしまったが、情報をゲットした。
やっぱり人に聞いてみること、声を出してみることって大切だね。
私とリュートさんは地下のほうへ進んでいくと、地下へ行くための通路の前は門になっていて、入場料を取られた。
リュートさんが雑にモンスターを倒した時に出る宝石を渡すと、門番は目を丸くして驚き、
「いやいやいやいや! そんなそんなそんなぁ! どうぞどうぞどうぞぉぉおおおおおおお!」
と言って私たちを通してくれた。
いや絶対過剰に渡してるじゃんと思ったけども、リュートさんは別になんてことない顔をしているので、もうそれでいいやと思った。
地下はむしろ地上よりも明るく光っていた。
確かに地上の店には電気的なライトは無かったけども、地下はギンギラギンと光っている。
セレブ御用達みたいな雰囲気がある。
私はこの世界にこんなところあるんだと思いながら、キョロキョロしていると、歯のマークが描かれたお店の人に対して、リュートさんが、
「まずは虫歯殲滅魔法からいくか、おい、店主、ユイ……この女性を頼む」
そう言いながら宝石を渡すと、店主の女性が、
「ひゃぁぁぁあああああああああ! 多めにやっときます!」
と言いながら、私をイスに座るよう促した。
殲滅を多めにやるとかないだろ、と思いつつ、イスに座ると、店主の女性が、
「では口を私に向けて開けて下さい」
と言ったので、言われるがままそうすると、店主の女性が手に白色のオーラを纏わせて、ゆっくり私の歯を指でなぞってきた。
多分時間にしたら二分くらいだと思う。
すぐに終わって、店主の女性が私を立つように促しながら、
「終わりました。それではえっと、このサイズの宝石で、本当にいいんですか?」
とリュートさんのほうを見ると、リュートさんは何故かちょっと小首を傾げながら、
「うん、そのサイズしかないからそれでいいでしょ、別に、えっ? 大丈夫だよね?」
「はい! 全然大丈夫です! ありがとうございます! またのお越しをぉぉおおお!」
「いや一回殲滅させたら来ないでしょ」
と、リュートさんは言ってから、
「じゃあユイ、次は魔具の店だな」
と言って歩き始めた。
リュートさんは大魔法使いと分かっていたけども、まさかこんなことで本当にすごいということが分かってしまうとは。
話によれば、宝石のサイズがモンスターの強さと比例するらしい。
人が驚くようなサイズの宝石しか持っていないって、つまりは人が驚くような強さを持っているということだ。
でもリュートさんはドジでアホだからな、と思いながら私はリュートさんが歩く方向についていくと、
「んっ、見つけたぞ、ユイ。魔具の店だ。好きなの選んでいいぞ」
魔具の店。
酷くござっぱりしている。
モノが乱雑に置かれている。
まあ毎日場所が変わるらしいので、そんな凝ったモノの置き方もできないだろうけども。
「ところでリュートさん、魔具ってどう選べばいいんですか?」
「知らん。だって俺、魔具使わなくても魔法使えるし」
……確かにそうだろうけども、何か知識があってもいいのでは、とも思ったけども、まあアホだからなと思って納得した。
多分こういうのはフィーリングだろうな、でも杖とか持っていると、かさばるし、と思っていると、手袋を見つけた。
指のところが穴あきの中二病みたいな手袋。
でもその手袋は『中二病のカレー屋さん』の主人公、虹島中也の真っ黒い手袋にそっくりで、めちゃくちゃカッコ良く見えた。
よしっ、これにしよう、私はリュートさんに、
「この手袋にします」
「手袋か、手袋は高いんだよな、かさばらないから」
と言いつつ、店主に向かって、さっきから出している宝石と同じサイズの宝石を三個渡すと、店主が、
「ひぇぇぇええええええええええ! 三個もいいんですかっ? 三個もいいんですかぁぁあああああっ?」
「えっ、二個でいいの?」
「二個でも! あっ! でも! 三個あると有り難いです!」
「じゃあ三個やるよ、かさばってるし」
いやこのリアクションの応酬、絶対一個で良かったヤツじゃん……。
というか宝石がかさばるって何だよ、無頓着すぎるだろ、リュートさん。
まあいいや、手袋もゲットして、私とリュートさんは家へ戻ろうとしたその時だった。
私とリュートさんは女性の声に呼び止められた。
「すみません! そこのアツアツカップルさん! デートの研究がしたいので、デートしているところ見させてもらってよろしいですかっ!」
何か変な人に話し掛けられた……。
・【百貨店】
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今日はリュートさんと、リホウの百貨店へ行くことになった。
第一の目標は私の虫歯菌を殲滅させる魔法を掛けてもらうこと。
第二の目標は私に合った魔具を買うことだ。
魔具とは魔法を使う時に、補助する道具のことで、杖が一般的。
だけどもそれ以外にも、小型で使いやすい道具もあるので、とりあえず見に行くという話だ。
リホウ。
私とリュートさんの家の近くにある村とは全く違った。
普通に車みたいなモノも走っているし、何よりも電柱のようなモノがあった。
どうやら電気が使われているらしい。
道も整備されて、全ての道が碁盤の目のように整理整頓された街並み。
リホウは壁に囲まれた大都市で、リホウの門の前まではリュートさんの風魔法で移動し、門をくぐってからは歩いて移動している。
リホウの百貨店にはすぐ着いた。
割かし門の近くにあったからだ。
リホウの百貨店は木造でなくて鉄筋だった。
ちゃんとこれくらいの科学力はある世界なんだと初めて知った。
「相変わらず何階もあるなぁ、じゃあ入るか、ユイ」
「そりゃ何階もある建物は階数が減ったりしないでしょ」
「揚げ足取りばかりだな、ユイはぁ」
何か不満げにそう言ったリュートさん。
いやでもいちいちバカっぽい発言をするリュートさんのせいだと思うんだけどな。
百貨店に入ると、お店がいっぱい並んでいた。
活気に溢れて、みんな声を出して客引きをしている。
魚市場か、と思いつつ、私は歩き出……いや歩き出す前に、
「リュートさん、百貨店の看板ってどこですかね? どこに何があるかのフロアマップというか」
「そんなモノは無いぞ、フロアの店はすぐにコロコロ変わるからな」
「えっ、そんな売り上げがシビアな世界なんですか?」
「何を言っているんだ、場所によって有利不利が無いように、毎朝くじでどこの場所に出店するか運で決まるからだろ」
「そんな来る人にとって不便な世界があったのか……」
いちいちカルチャーショックがあるな、この世界。
いやまあこの百貨店だけかもしれないけども、でもここだけ、といった感じでもないんだよな、リュートさんの雰囲気を見ると。
じゃあ
「探さないといけないということですか?」
「そう、宝探しみたいで楽しいだろ」
楽しいと思えばそうかもしれないけども、同時にこの世界の人たちって暇なんだなとも思った。
まあ確かに度々行く村も、働いている人と働いていない人の差が激しかったような気がするし、そういうもんなのかなぁ。
私とリュートさんは、まあ百貨店を隅々まで歩いた。
でもなかなか虫歯菌殲滅屋さんも、魔具のお店すらない。
魔具のお店くらい、たくさんあるイメージだったけども、変な草を売っているお店ばかりだ。
『そんなに苦くない草』とか『言うほどクサくない草』とか、全部いらねぇよみたいな草を売っているお店ばかり。
何でだろうと、そのことをリュートさんに話すと、
「魔具も虫歯菌殲滅も高価だから、あんまり無いんだよ」
「というか、リュートさん、お金を持っているんですか?」
「お金というかモンスターを倒した時に手に入る魔石をいっぱい持ってきてるぞ。それで代用が利くし」
いやでもそれだと小回りが利かないのでは、と思ったけども、リュートさんほど強ければいくらでも手に入れられるだろうし、それでいいかとも思った。
どう考えてもどんぶり勘定すぎるけども、まあリュートさんにそんな社会性を求めちゃいけないと思う。
リュートさんはキョロキョロ周りを見渡しながら、歩くので、私もそうしていると、床に座って全く動かない女の子がいた。
よくよく見ると泣いているので、私はビックリしながら、
「どうしたのっ! 迷子になったのっ?」
と話し掛けると、その女の子はこちらをくるりと向いて、
「どうやらそのようです」
と答えた。
何だその受け答え方と思いつつも、私は女の子の前でしゃがんで、
「じゃあ探してあげる!」
するとリュートさんが参ったなといった表情をしながら、
「そういう安請け合いは最終的に損するぞ」
「いや困っている女の子を見過ごせないじゃん!」
「動かずに待つということも戦法の一つということだよ、俺もよくやったよ、ユイが来る前は」
「いやその時のリュートさんは多分大人ですよね! 大人は迷子にならないで下さいよ!」
「なるだろ、でも忍耐力で突破した」
そう自信満々に仰け反りながら答えたリュートさん。
いや全然褒めたりはしたくないけども。
そんなことよりも、
「お嬢ちゃん、とりあえずこれを舐めて休んで」
私は創造魔法を使うため、手に魔力を込め、
「カラフルな色が渦巻いて、それぞれ果実の香りがついていて、舐めれば勿論甘くて美味しい、橙色はさわやかが香るオレンジ、緑色はスキッとしたフレッシュが香るマスカット、赤色は甘酸っぱさが香るイチゴ、そんな棒のついた大きな大きなペロペロキャンディ! いでよ!」
ペロペロキャンディを出現させ、棒のところを女の子に手渡し、
「この棒じゃない部分を舐めてみて、甘くて美味しいよ」
女の子はおそるおそるペロペロキャンディを舐めると、すぐさま顔をニッコリさせて、
「どうやらおいしいようです!」
と声を上げた。
それからどんどんペロペロキャンディを舐め始めた女の子。
ちょっとペース早いなと思いつつも、すごい勢いで舐めていく女の子。
その度に、
「どうやらすごい! どうやらすごいことになりました!」
と謎の”どうやら”口調で実況をする女の子にリュートさんはやれやれといった感じに、
「ユイの力なら当然だよな、というわけで俺にも出してくれよ」
とさわやかに言い切った。
何がやれやれなんだよ、と思いつつ、一応リュートさんの分も出すと、リュートさんはめちゃくちゃテンション上がりながら、
「こ! こんなもぉん!」
と叫んでから、めちゃくちゃ舐め始めた。
何だよリュートさんの食べ始める直前の台詞、何か怖かったな、と思いつつ、二人がペロペロしているところを見ていると、一人の男性が近寄って来た。
あっ、ペロペロキャンディこれからいっぱい作らないといけないのかなと思っていると、その男性が、
「チヨコ! こんなところにいたのか! 珍しく声がするなと思ったら、やっぱりこのフロアにいたのか!」
すぐさま女の子が、
「どうやらパパだ! どうやら見つけてくれたようです!」
「きょっ、今日はなかなか声を張っているな、そんなテンションが上がることがあったんだな」
何かちょっと引いているくらいの男性。
多分娘の、言動に引くなよ。
でもどうやら、ペロペロキャンディを食べたことにより心が躍って、よく喋るようになり、その声で分かったらしい。
確かに迷子の時は声を出したほうが見つかりやすいもんなぁ。
男性は娘とリュートさんを交互に見て、
「何か、その食べ物を買って下さったんですね、ありがとうございます」
そして男性と女の子は一緒に手を繋いで、その場を去った。
私はリュートさんに、
「見つかって良かったですね」
「俺もこんなモノが舐められて良かったぜ」
とカッコつけたリュートさん。
いや全然カッコ悪いけども。
ペロペロキャンディってどちらかと言えば子供の食べ物だし。
まあそんな概念も無いか。
というか、
「早く魔具のお店と虫歯殲滅魔法のお店、見つけましょうよ」
と自分で言った時に気付いた。
そうだ、声に出せばいいんだ。
私は大きな声で、
「すみません! 魔具や虫歯殲滅魔法のお店を知っているお方はいませんか!」
と叫んでみると、目の前にいた女性が、
「そういう高価な店は地下ですよ、地下内で動くことはありますけども、基本的に地下から動かないですよ、高価な店は。というかそんなこと知らないで、ちゃんとお金あります?」
ちょっと知識のマウントとられてしまったが、情報をゲットした。
やっぱり人に聞いてみること、声を出してみることって大切だね。
私とリュートさんは地下のほうへ進んでいくと、地下へ行くための通路の前は門になっていて、入場料を取られた。
リュートさんが雑にモンスターを倒した時に出る宝石を渡すと、門番は目を丸くして驚き、
「いやいやいやいや! そんなそんなそんなぁ! どうぞどうぞどうぞぉぉおおおおおおお!」
と言って私たちを通してくれた。
いや絶対過剰に渡してるじゃんと思ったけども、リュートさんは別になんてことない顔をしているので、もうそれでいいやと思った。
地下はむしろ地上よりも明るく光っていた。
確かに地上の店には電気的なライトは無かったけども、地下はギンギラギンと光っている。
セレブ御用達みたいな雰囲気がある。
私はこの世界にこんなところあるんだと思いながら、キョロキョロしていると、歯のマークが描かれたお店の人に対して、リュートさんが、
「まずは虫歯殲滅魔法からいくか、おい、店主、ユイ……この女性を頼む」
そう言いながら宝石を渡すと、店主の女性が、
「ひゃぁぁぁあああああああああ! 多めにやっときます!」
と言いながら、私をイスに座るよう促した。
殲滅を多めにやるとかないだろ、と思いつつ、イスに座ると、店主の女性が、
「では口を私に向けて開けて下さい」
と言ったので、言われるがままそうすると、店主の女性が手に白色のオーラを纏わせて、ゆっくり私の歯を指でなぞってきた。
多分時間にしたら二分くらいだと思う。
すぐに終わって、店主の女性が私を立つように促しながら、
「終わりました。それではえっと、このサイズの宝石で、本当にいいんですか?」
とリュートさんのほうを見ると、リュートさんは何故かちょっと小首を傾げながら、
「うん、そのサイズしかないからそれでいいでしょ、別に、えっ? 大丈夫だよね?」
「はい! 全然大丈夫です! ありがとうございます! またのお越しをぉぉおおお!」
「いや一回殲滅させたら来ないでしょ」
と、リュートさんは言ってから、
「じゃあユイ、次は魔具の店だな」
と言って歩き始めた。
リュートさんは大魔法使いと分かっていたけども、まさかこんなことで本当にすごいということが分かってしまうとは。
話によれば、宝石のサイズがモンスターの強さと比例するらしい。
人が驚くようなサイズの宝石しか持っていないって、つまりは人が驚くような強さを持っているということだ。
でもリュートさんはドジでアホだからな、と思いながら私はリュートさんが歩く方向についていくと、
「んっ、見つけたぞ、ユイ。魔具の店だ。好きなの選んでいいぞ」
魔具の店。
酷くござっぱりしている。
モノが乱雑に置かれている。
まあ毎日場所が変わるらしいので、そんな凝ったモノの置き方もできないだろうけども。
「ところでリュートさん、魔具ってどう選べばいいんですか?」
「知らん。だって俺、魔具使わなくても魔法使えるし」
……確かにそうだろうけども、何か知識があってもいいのでは、とも思ったけども、まあアホだからなと思って納得した。
多分こういうのはフィーリングだろうな、でも杖とか持っていると、かさばるし、と思っていると、手袋を見つけた。
指のところが穴あきの中二病みたいな手袋。
でもその手袋は『中二病のカレー屋さん』の主人公、虹島中也の真っ黒い手袋にそっくりで、めちゃくちゃカッコ良く見えた。
よしっ、これにしよう、私はリュートさんに、
「この手袋にします」
「手袋か、手袋は高いんだよな、かさばらないから」
と言いつつ、店主に向かって、さっきから出している宝石と同じサイズの宝石を三個渡すと、店主が、
「ひぇぇぇええええええええええ! 三個もいいんですかっ? 三個もいいんですかぁぁあああああっ?」
「えっ、二個でいいの?」
「二個でも! あっ! でも! 三個あると有り難いです!」
「じゃあ三個やるよ、かさばってるし」
いやこのリアクションの応酬、絶対一個で良かったヤツじゃん……。
というか宝石がかさばるって何だよ、無頓着すぎるだろ、リュートさん。
まあいいや、手袋もゲットして、私とリュートさんは家へ戻ろうとしたその時だった。
私とリュートさんは女性の声に呼び止められた。
「すみません! そこのアツアツカップルさん! デートの研究がしたいので、デートしているところ見させてもらってよろしいですかっ!」
何か変な人に話し掛けられた……。