食リポで救える命があるそうです

・【リホウでデート】


 私とリュートさんが振り返ると、そこには髪の毛が橙色でボサボサ・ショート、ぐるぐるメガネの明らかにオタクのような女性が立っていた。
 私は、マジで漫画内に出てくるオタクの象徴みたいだな、と思いつつ、
「私とリュートさんはデートをしているわけじゃありませんよ」
 と答えると、その女性は、
「いやでももはやデートじゃないですか! その並びは!」
 ちょっとした沈黙。
 いやでも確かにデートに見えるか、いやこれデートだわ。
 全然意識していなかったけども、これデートじゃん。
 うわっ、ちょっと恥ずかしくなってきた。
 どうしよう、リュートさんは何を思っているんだろう、と思いながら、リュートさんのほうを見ると、
「デートじゃねぇしっ」
 と『中二病のカレー屋さん』の主人公、虹島中也のような、中二リアクションをとった。
 もっと余裕を持ってくれよ。
 女性はグイグイこっちに近付いてきて、
「遠目で見ているだけでいいんで! デートしているところを見るだけでいいんで!」
 と言ってくるが、どう考えても密着してきてるだろ、と思っていると、リュートさんが、
「というか俺たちもうやること終わったんだよ、もう帰るだけなんだよ」
 と答えると、その女性は首を横に振ると、
「いや! デートはこれからでしょ! 日もまだ全然落ちていないですし!」
 それに対して私はちょっと笑っちゃってから、
「本当にもう用は済んだんですよ、帰るだけなんですよ」
 しかし女性は譲らず、
「ほら! 高級な草レストランもありますよ! 美味しい草を二人で食べたらいいじゃないですか!」
 するとリュートさんが、
「もう草なんて食べないから。ユイの魔法で美味しいモノ食べたほうが絶対に良い」
 と答えると、その女性は、
「美味しいモノ出せるんですね! じゃあ男性さんはこれからこの女性さんに良い服をプレゼントしないとダメですね!」
「いやユイが魔法で服を出してくれるからいい」
「じゃ! じゃあ! 装飾品をプレゼントするんですね!」
「あっ、ユイ、装飾品も出せるか、きっと」
 何だこの『プレゼントするでしょ→いやユイが創造魔法で作ってくれる』のラリーは。
 というか私、いろんなモノ出しすぎだな。
 女性は何故か肩で息をしてゼェゼェだ。
 どこにそんな疲れる要素があったんだよ。
 まあいいや、
「リュートさん、もう帰りましょう」
 と言ったところで、その女性が、
「そもそも好きな人と一緒に歩くだけでも楽しいですよね!」
 と言ってきて、まあその通りではあるな、と思った。
 私の中の面倒臭さと、ちょっと一緒に歩きたい欲が重なり始めて、
「もういいや、リュートさん。ちょっとだけ一緒に歩かない? それだけでこの人、満足するみたいだし」
 と言ってみると、リュートさんはう~んと腕を組んで悩んでから、
「まあユイがそれでいいならいいけども、でもユイ、足が痛くなったらすぐに言えよ」
 いやちゃんとそういうこと言えるんかいと思った刹那、その女性が、
「いい! そういう台詞いいですね! どんどんいきましょう!」
 と目を爛々と輝かせながら、そう言ってきたので、若干興ざめになった。
 何だよ、もう邪魔しないでくれよ、と思いつつ、私はリュートの服の袖を引っ張って歩き始めた。
 そのまま百貨店を出て、リホウの街に出た。
 私はふと気になったことがあったので、聞いてみることにした。
「宝石って創造魔法じゃ作れないの?」
「モンスターの魔石な、あれは特殊な力が宿っているから人間には無理だろうな。あの色にならないぞ」
 どうやら私が電化製品の回路が分からず、作れなかったみたいなことで、宝石もそういった何かがあるらしい。
 まあ握って発電する懐中電灯くらいなら分解したことあるから作れたけども、パソコンとかスマホとか無理だもんなぁ。
 そんなことを考えていると、リュートさんが、
「というかあの女性、ずっとついてくるな、撒くか」
「いや一応あの女性のために歩いている部分もあるんだから、撒こうとしないでよ」
「何か怖いんだよな、あういう女性」
「あっ、リュートさんって苦手な女性とかいるんだ」
 と普通に答えると、急に黙ってしまったリュートさん。
 何だ何だと思っていると、リュートさんが口を開いた。
「似ているんだよな、昔のパーティに。俺が冒険者だった頃のパーティに」
 なんとなくこれ以上聞いていいことなのかどうか分からなくなってしまって、私も一旦黙ってしまうと、
「ユイ、昔のことはもう俺大丈夫だから、今、ユイがいてくれればそれだけで全部余裕って気持ちだ」
 そう言ってニッコリ微笑んだリュートさん。
 そのさわやかな笑顔に私は胸が高鳴った。
 というかいつもアホなのに、急にそんなこと言って反則だろ。
 でもそうか、そうだね、
「私も今リュートさんがいてくれれば、昔のことなんてどうでもいいなぁ」
「そうか、ユイも過去に何かあったんだ」
「ううん、そんな重い感じじゃないよっ、ただ趣味が合わなくて会話できなかっただけ」
「それは変な話だな、ユイは楽しいヤツなんだから絶対会話したくなるはずなのに」
 何か、そんなこと思ってくれていたんだと思って、私は心が温まった。
 無理やり歩かされているくらいのデートだったけども、リュートさんの気持ちが少し分かって良かった。
 結局、そんな感じでデートは終了し、その女性も何か満足したみたいで、その場をあとにした。
 それキッカケで、私とリュートさんもリホウから離れて、家へ戻った。
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