食リポで救える命があるそうです
・
・【草】
・
リュートさんはたまに物凄い酸っぱいだけの草が食べたくなることがあるらしい。
何その依存性、ヤバイ草じゃないよね、と思いつつ、私とリュートさんは近くの村にやって来た。
本当はリュートさん一人でもいいんだけども、私もついていきたいと言ったら、すぐに二人で行くことになった。
まあ移動も、リュートさんに乗っけてもらってじゃなくて、自分は自分の風魔法で、モップも使わず移動できるようになったから、というのもあるだろうけども。
「あった、あった、この草が物凄く酸っぱくて何でもないんだ」
「いやそんな草、求めなくても」
「いやでもユイが出す料理と違って、全然丸みを帯びていなくて最高で最低なんだよ」
「そんな尖った食品を楽しみにされても」
そんなことを言いながら、草屋さんを見て回っていると、私はとあることに気付いた。
それは草を藁のようなモノで束ねているだけで、他に野菜というような見た目のモノが無いということだった。
私は気になってリュートさんに、
「何か、野菜というか、果実系の草って無いんですか? 草というか葉っぱの野菜も無いですし」
「あぁ、ユイが作ったミニトマトってヤツか? ああいったモノなんて、一切無いぞ」
私は何だかゾッと背筋が凍ってしまった。
ずっと創造魔法に”恵まれていたせいで”私はこの世界のことをまだまだちっとも分かっていなかった、と。
飢餓が蔓延した世界ということを少し忘れていたかもしれない。
そうだ、まずは野菜から作らなければ、そう心に誓って、私はリュートさんにこう言った。
「まずサツマイモから作りましょう」
「何だよサツマイモって」
そうだ、急にサツマイモと言って伝わるわけがない。
とりあえず、私は村の偉い人であるヒマンさんの家へ案内してほしいとリュートさんに頼んだ。
リュートさんは快諾し、ヒマンさんの家の前に連れてってくれた。
久しぶりのヒマンさんはまたちょっと前よりもやせ細っていた。
「ユイさんですね、お久しぶりです。何か用件でもありましたか?」
「実は私、この世界の飢餓をどうにかしたいと思って、サツマイモという野菜を育てたいと思っているんです」
「野菜というモノは何ですか、草のことですか?」
「草の一種ですね、根っこを食べたり、葉っぱも食べられます。痩せた大地にほどよく育つ嘘みたいな食べ物があるんです」
それに対してリュートさんが割って入る。
「そんな都合が良すぎる食べ物、本当にあるのかよ」
「本当にあるんです。いや本当に甘くて美味しいモノを作るにはそれなりに土壌改良しないといけないみたいですけども、普通に食べる分には十分すぎるくらいに痩せた大地によく育つ野菜があるんです」
ヒマンさんはアゴのあたりをさわりながら、
「なるほど、そういったモノを育てれば食べ物に困らないというわけですね。いや善は急げですね。よろしくお願いします」
そう、善は急げだ。
早くこういうことに取り掛かるべきだったんだ。
つい私はリュートさんとの生活ばかりに気を取られて、大切なことを忘れていた。
というわけで、
「早速まず種イモを出しますね。じっくり火を入れるととろりと蜜が皮の隙間から溶け出す、しっとり系のサツマイモ。痩せた大地、砂地にこそ育つサツマイモは甘くて栄養素も抜群。保存も効きます。種イモ!」
私は手からボロボロこぼれるほど多くの種イモを出した。
『農家パティシエ・ユルキくん』に激ハマりした時に、サツマイモの植え方を学んだので、大丈夫だ。
私はリュートさんとヒマンさんに説明する。
「この種イモを水耕栽培で芽出しを行ないます」
じゃなくて、もっとかみ砕いて言わなければ。
「種イモをカットして、水に付けて、芽を出させます」
まず種イモをカットして、カットした部分を水につけたところで、リュートさんが、
「植物促成魔法でその芽出しとやらをやってみていいか?」
「自分の体力が尽きるほどはやらないで下されば、いいですけども。まあ私も使えるかどうか試したいですし」
リュートさんは水に浸った種イモに植物促成魔法を使うと、ちゃんと芽が出てきたので、私は
「その芽を地面に植えると、一応は大丈夫です」
「じゃあ地面に植えて、もう少し植物育成魔法をするか」
「無理しないで下さいね、リュートさん」
「大丈夫、まだ大丈夫だから、実を作って熟させるよりも全然消費魔力が少ないし」
それなら良かったと思いつつ、私はリュートさんのほうを見ていた。
リュートさんが地面に植えた芽に手をかざすと、みるみる成長していった。
どうやら成功で間違いないみたいだ。
まあミニトマトの種の時に比べて、種イモは丸々ただのサツマイモなので、うまくできている自信は強くあった。
芽はみるみる葉になり、ツタになり、畑に伸び始めたところで、
「リュートさん、気になるのは分かりますが、一旦止めて下さい。明日またしましょう」
その声にハッとしたリュートさんはこっちを向いて、
「またついやりすぎるところだった……」
と額から滲んだ汗を拭いた。
食べ物の魅力に負け過ぎだろと思いつつも、私はまずヒマンさんに説明した。
「このツタも食べることができます。粘りのあるツタですが、あんまりクセも無く、美味しいですよ。確か」
そう、確か。
実際私はツタを一度しか食べたことがない。
飽食の世界ではサツマイモのツタなんて食べなくても生きていけるから。
ヒマンさんがツタを収穫し始めたので、私はお湯を沸かす準備をし始めた。
近くの井戸から水を汲み、火の魔法で沸騰させた。
「茹でて食べられるはずです」
ヒマンさんはサツマイモのツタを茹でて、ザルにあげたモノに塩を掛けて食べた。
すると、
「これは美味しい! この粘り気がまた元気をもらえるようだ! これはすごいぞ! すごい草だ!」
いやサツマイモは芋が本陣なんだけどもな、と思いつつも、これでまず喜んで下さっていることが嬉しい。
ヒマンさんは村人たちを呼んで、サツマイモのツタ・パーティを始めた。
すごいサツマイモのツタ、茹でてるなぁ、と思って見ていると、あることが浮かんだ。
「すみません、この中に植物促成魔法が得意なお方はいませんか? もっと成長させればツタ以外も食べられますよ」
その私の声に強く反応した女性がいた。
手を挙げながら近付き、こう言ってきた。
「もっと大量のツタを得ることができるということですね!」
「いやそうじゃなくて、このツタは副次的なモノで、このサツマイモという野菜は根っこを食べる野菜なんです」
「根っこを食べる……?」
あからさまに頭上に疑問符を浮かべた女性。
何だか二の足を踏んでいるような印象。
そこにリュートさんがこう言った。
「ユイの言うことは信じてくれ。ユイに任せれば全て上手くいく」
そのリュートさんの言葉で動き始めた女性。
というかリュートさんが私にそんな信頼感を持ってくれているなんて嬉しい。
それと同時に村人たちのリュートさんへの信頼感もすごいな、と思った。
時折出てくるドジとアホに紛れてしまうことが多いけど、やっぱりリュートさんはすごい人なんだろうな。ちょっとだけ尊敬した。
植物促成魔法を使い始めたその女性。
ツタの勢いが弱まってきたあたりで、私はストップを出し、早速掘ってみることにした。
掘るといっても、魔法でサツマイモがありそうな場所を土ごと動かすだけだけども。
果たして。
私は丁寧に土魔法を使い、動かしてみると……!
「サツマイモ! 成ってます!」
芽の出ていた場所から、もっそりと大量のサツマイモがついていた。
ちょっと大きさは小振りだけども、その分たくさんついている。
「この根っこの部分を焼いて食べます!」
私がそう言った刹那、村人たちがワッと集まってきて、サツマイモを引っ張って取り始めた。
すごい、暴動みたいだと思いつつも、一気にサツマイモは無くなり、早速みんな水で洗い始めた。
そのサツマイモをカットして、フライパンのようなモノに乗せて、火の魔法で焼いて。
私はどうにか確保した一個のサツマイモを持って、土魔法を使い、たくさんの石を作り出し、さらに創造魔法でアルミホイルを作って、サツマイモをそれで巻き、たくさんの石の中に入れて、じっくり火入れを始めた。
それを見ていたリュートさんが、
「ユイ、何そんな回りくどいやり方をしているんだ?」
「サツマイモはゆっくり時間を掛けて熱したほうが美味しくなるんですよ、リュートさんはまず村人さんたちが作っているサツマイモを食べて下さい。食べ比べたらより違いが分かるので」
「なるほど、分かった。じゃあ俺は簡単に焼いたサツマイモを食べているから」
ここから村人とリュートさん、私による、サツマイモ・パーティの火ぶたが切って落とされた。
まず簡易的に焼いたサツマイモを食べて、みんな「うまい」「甘い」と言い始め、植物促成魔法を使える人がどんどんサツマイモを育てていく。
ツタもイモもバクバク食べていく村人たちに、リュートさん。
いつもそれ以上に美味しいモノ食べているだろ、と思うリュートさんは負けじと食べまくる。どんだけ食うんだ、この人。
さて、そろそろ私の焼き芋も完成かな、と思い、手に氷魔法を纏わせながら、アルミホイルで巻いたサツマイモを取り出し、開けてみると、
「わぁぁあああ、蜜が皮から溢れている……」
芋を優しく押してみると、とろとろしていて、もはや先っぽから垂れてきそうだ。
まるで押し出すとホイップクリームが出てくるビニール状態。
そんな私の感嘆にすぐ反応したのが、リュートさんだった。
「ユイ、真のサツマイモ、完成したのか?」
「真のサツマイモて。まあ確かにそうですけども、じゃあまず私が味見してみますね」
私はサツマイモに思い切ってかぶりつくと、口の中で甘さと旨味が広がり、心がほっこりしてきた。
舌に絡みつくような、ねっとりとした質の芋で、じわぁと体いっぱいに味が広がっていく。
「リュートさん、これ、すごい美味しいですよ」
そう言いながら、私はリュートさんに差し出すと、受け取ったリュートさんは叫んだ。
「あっつぅっ!」
「いや熱から出したてなんですから当たり前ですよ。湯気出てるじゃないですか。何か、冷却魔法で手を覆って下さいよ」
「綺麗なモノには棘がある、ってヤツか……」
「全然そんなんじゃないですよ、熱したら熱い、そのままですよ」
リュートさんは一旦落ち着いてから、また私に渡していたサツマイモを今度こそ受け取り、ゆっくりとサツマイモをほおばった。
「うまい! これはすごくうまいぞ!」
リュートさんは声を荒らげた。
その声に村人たちが反応し、ワッと集まる。
サツマイモの見た目を見て、ただ輪切りにして焼いただけのサツマイモとは全く違うことをみんな感じ取った。
そこからはみんなで石焼きをし始めた。
ある程度サツマイモやツタを食べたことにより、若干の我慢ができるようになったのだろう。
みんな根気強く、サツマイモを石焼きし、そしてみんなで食べた。
「「「うまぁぁぁあああああああああああい!」」」
結局、芽を出した分のサツマイモはほとんど無くなってしまった。
何本かは掘り返さず、そのままにしていたけども、それはまあ明日への楽しみという感じで。
私とリュートさんは家に戻った。
リュートさんはずっと石焼きサツマイモの話をしていた。
よっぽど美味しかったんだろうな。
いや確かに美味しかった。
正直創造魔法では作れないくらい美味しかった。
やっぱり本物には勝てないか、と思ったと同時に、ならばやっぱりどんどん野菜を作っていかないとダメだな、と思った。
・【草】
・
リュートさんはたまに物凄い酸っぱいだけの草が食べたくなることがあるらしい。
何その依存性、ヤバイ草じゃないよね、と思いつつ、私とリュートさんは近くの村にやって来た。
本当はリュートさん一人でもいいんだけども、私もついていきたいと言ったら、すぐに二人で行くことになった。
まあ移動も、リュートさんに乗っけてもらってじゃなくて、自分は自分の風魔法で、モップも使わず移動できるようになったから、というのもあるだろうけども。
「あった、あった、この草が物凄く酸っぱくて何でもないんだ」
「いやそんな草、求めなくても」
「いやでもユイが出す料理と違って、全然丸みを帯びていなくて最高で最低なんだよ」
「そんな尖った食品を楽しみにされても」
そんなことを言いながら、草屋さんを見て回っていると、私はとあることに気付いた。
それは草を藁のようなモノで束ねているだけで、他に野菜というような見た目のモノが無いということだった。
私は気になってリュートさんに、
「何か、野菜というか、果実系の草って無いんですか? 草というか葉っぱの野菜も無いですし」
「あぁ、ユイが作ったミニトマトってヤツか? ああいったモノなんて、一切無いぞ」
私は何だかゾッと背筋が凍ってしまった。
ずっと創造魔法に”恵まれていたせいで”私はこの世界のことをまだまだちっとも分かっていなかった、と。
飢餓が蔓延した世界ということを少し忘れていたかもしれない。
そうだ、まずは野菜から作らなければ、そう心に誓って、私はリュートさんにこう言った。
「まずサツマイモから作りましょう」
「何だよサツマイモって」
そうだ、急にサツマイモと言って伝わるわけがない。
とりあえず、私は村の偉い人であるヒマンさんの家へ案内してほしいとリュートさんに頼んだ。
リュートさんは快諾し、ヒマンさんの家の前に連れてってくれた。
久しぶりのヒマンさんはまたちょっと前よりもやせ細っていた。
「ユイさんですね、お久しぶりです。何か用件でもありましたか?」
「実は私、この世界の飢餓をどうにかしたいと思って、サツマイモという野菜を育てたいと思っているんです」
「野菜というモノは何ですか、草のことですか?」
「草の一種ですね、根っこを食べたり、葉っぱも食べられます。痩せた大地にほどよく育つ嘘みたいな食べ物があるんです」
それに対してリュートさんが割って入る。
「そんな都合が良すぎる食べ物、本当にあるのかよ」
「本当にあるんです。いや本当に甘くて美味しいモノを作るにはそれなりに土壌改良しないといけないみたいですけども、普通に食べる分には十分すぎるくらいに痩せた大地によく育つ野菜があるんです」
ヒマンさんはアゴのあたりをさわりながら、
「なるほど、そういったモノを育てれば食べ物に困らないというわけですね。いや善は急げですね。よろしくお願いします」
そう、善は急げだ。
早くこういうことに取り掛かるべきだったんだ。
つい私はリュートさんとの生活ばかりに気を取られて、大切なことを忘れていた。
というわけで、
「早速まず種イモを出しますね。じっくり火を入れるととろりと蜜が皮の隙間から溶け出す、しっとり系のサツマイモ。痩せた大地、砂地にこそ育つサツマイモは甘くて栄養素も抜群。保存も効きます。種イモ!」
私は手からボロボロこぼれるほど多くの種イモを出した。
『農家パティシエ・ユルキくん』に激ハマりした時に、サツマイモの植え方を学んだので、大丈夫だ。
私はリュートさんとヒマンさんに説明する。
「この種イモを水耕栽培で芽出しを行ないます」
じゃなくて、もっとかみ砕いて言わなければ。
「種イモをカットして、水に付けて、芽を出させます」
まず種イモをカットして、カットした部分を水につけたところで、リュートさんが、
「植物促成魔法でその芽出しとやらをやってみていいか?」
「自分の体力が尽きるほどはやらないで下されば、いいですけども。まあ私も使えるかどうか試したいですし」
リュートさんは水に浸った種イモに植物促成魔法を使うと、ちゃんと芽が出てきたので、私は
「その芽を地面に植えると、一応は大丈夫です」
「じゃあ地面に植えて、もう少し植物育成魔法をするか」
「無理しないで下さいね、リュートさん」
「大丈夫、まだ大丈夫だから、実を作って熟させるよりも全然消費魔力が少ないし」
それなら良かったと思いつつ、私はリュートさんのほうを見ていた。
リュートさんが地面に植えた芽に手をかざすと、みるみる成長していった。
どうやら成功で間違いないみたいだ。
まあミニトマトの種の時に比べて、種イモは丸々ただのサツマイモなので、うまくできている自信は強くあった。
芽はみるみる葉になり、ツタになり、畑に伸び始めたところで、
「リュートさん、気になるのは分かりますが、一旦止めて下さい。明日またしましょう」
その声にハッとしたリュートさんはこっちを向いて、
「またついやりすぎるところだった……」
と額から滲んだ汗を拭いた。
食べ物の魅力に負け過ぎだろと思いつつも、私はまずヒマンさんに説明した。
「このツタも食べることができます。粘りのあるツタですが、あんまりクセも無く、美味しいですよ。確か」
そう、確か。
実際私はツタを一度しか食べたことがない。
飽食の世界ではサツマイモのツタなんて食べなくても生きていけるから。
ヒマンさんがツタを収穫し始めたので、私はお湯を沸かす準備をし始めた。
近くの井戸から水を汲み、火の魔法で沸騰させた。
「茹でて食べられるはずです」
ヒマンさんはサツマイモのツタを茹でて、ザルにあげたモノに塩を掛けて食べた。
すると、
「これは美味しい! この粘り気がまた元気をもらえるようだ! これはすごいぞ! すごい草だ!」
いやサツマイモは芋が本陣なんだけどもな、と思いつつも、これでまず喜んで下さっていることが嬉しい。
ヒマンさんは村人たちを呼んで、サツマイモのツタ・パーティを始めた。
すごいサツマイモのツタ、茹でてるなぁ、と思って見ていると、あることが浮かんだ。
「すみません、この中に植物促成魔法が得意なお方はいませんか? もっと成長させればツタ以外も食べられますよ」
その私の声に強く反応した女性がいた。
手を挙げながら近付き、こう言ってきた。
「もっと大量のツタを得ることができるということですね!」
「いやそうじゃなくて、このツタは副次的なモノで、このサツマイモという野菜は根っこを食べる野菜なんです」
「根っこを食べる……?」
あからさまに頭上に疑問符を浮かべた女性。
何だか二の足を踏んでいるような印象。
そこにリュートさんがこう言った。
「ユイの言うことは信じてくれ。ユイに任せれば全て上手くいく」
そのリュートさんの言葉で動き始めた女性。
というかリュートさんが私にそんな信頼感を持ってくれているなんて嬉しい。
それと同時に村人たちのリュートさんへの信頼感もすごいな、と思った。
時折出てくるドジとアホに紛れてしまうことが多いけど、やっぱりリュートさんはすごい人なんだろうな。ちょっとだけ尊敬した。
植物促成魔法を使い始めたその女性。
ツタの勢いが弱まってきたあたりで、私はストップを出し、早速掘ってみることにした。
掘るといっても、魔法でサツマイモがありそうな場所を土ごと動かすだけだけども。
果たして。
私は丁寧に土魔法を使い、動かしてみると……!
「サツマイモ! 成ってます!」
芽の出ていた場所から、もっそりと大量のサツマイモがついていた。
ちょっと大きさは小振りだけども、その分たくさんついている。
「この根っこの部分を焼いて食べます!」
私がそう言った刹那、村人たちがワッと集まってきて、サツマイモを引っ張って取り始めた。
すごい、暴動みたいだと思いつつも、一気にサツマイモは無くなり、早速みんな水で洗い始めた。
そのサツマイモをカットして、フライパンのようなモノに乗せて、火の魔法で焼いて。
私はどうにか確保した一個のサツマイモを持って、土魔法を使い、たくさんの石を作り出し、さらに創造魔法でアルミホイルを作って、サツマイモをそれで巻き、たくさんの石の中に入れて、じっくり火入れを始めた。
それを見ていたリュートさんが、
「ユイ、何そんな回りくどいやり方をしているんだ?」
「サツマイモはゆっくり時間を掛けて熱したほうが美味しくなるんですよ、リュートさんはまず村人さんたちが作っているサツマイモを食べて下さい。食べ比べたらより違いが分かるので」
「なるほど、分かった。じゃあ俺は簡単に焼いたサツマイモを食べているから」
ここから村人とリュートさん、私による、サツマイモ・パーティの火ぶたが切って落とされた。
まず簡易的に焼いたサツマイモを食べて、みんな「うまい」「甘い」と言い始め、植物促成魔法を使える人がどんどんサツマイモを育てていく。
ツタもイモもバクバク食べていく村人たちに、リュートさん。
いつもそれ以上に美味しいモノ食べているだろ、と思うリュートさんは負けじと食べまくる。どんだけ食うんだ、この人。
さて、そろそろ私の焼き芋も完成かな、と思い、手に氷魔法を纏わせながら、アルミホイルで巻いたサツマイモを取り出し、開けてみると、
「わぁぁあああ、蜜が皮から溢れている……」
芋を優しく押してみると、とろとろしていて、もはや先っぽから垂れてきそうだ。
まるで押し出すとホイップクリームが出てくるビニール状態。
そんな私の感嘆にすぐ反応したのが、リュートさんだった。
「ユイ、真のサツマイモ、完成したのか?」
「真のサツマイモて。まあ確かにそうですけども、じゃあまず私が味見してみますね」
私はサツマイモに思い切ってかぶりつくと、口の中で甘さと旨味が広がり、心がほっこりしてきた。
舌に絡みつくような、ねっとりとした質の芋で、じわぁと体いっぱいに味が広がっていく。
「リュートさん、これ、すごい美味しいですよ」
そう言いながら、私はリュートさんに差し出すと、受け取ったリュートさんは叫んだ。
「あっつぅっ!」
「いや熱から出したてなんですから当たり前ですよ。湯気出てるじゃないですか。何か、冷却魔法で手を覆って下さいよ」
「綺麗なモノには棘がある、ってヤツか……」
「全然そんなんじゃないですよ、熱したら熱い、そのままですよ」
リュートさんは一旦落ち着いてから、また私に渡していたサツマイモを今度こそ受け取り、ゆっくりとサツマイモをほおばった。
「うまい! これはすごくうまいぞ!」
リュートさんは声を荒らげた。
その声に村人たちが反応し、ワッと集まる。
サツマイモの見た目を見て、ただ輪切りにして焼いただけのサツマイモとは全く違うことをみんな感じ取った。
そこからはみんなで石焼きをし始めた。
ある程度サツマイモやツタを食べたことにより、若干の我慢ができるようになったのだろう。
みんな根気強く、サツマイモを石焼きし、そしてみんなで食べた。
「「「うまぁぁぁあああああああああああい!」」」
結局、芽を出した分のサツマイモはほとんど無くなってしまった。
何本かは掘り返さず、そのままにしていたけども、それはまあ明日への楽しみという感じで。
私とリュートさんは家に戻った。
リュートさんはずっと石焼きサツマイモの話をしていた。
よっぽど美味しかったんだろうな。
いや確かに美味しかった。
正直創造魔法では作れないくらい美味しかった。
やっぱり本物には勝てないか、と思ったと同時に、ならばやっぱりどんどん野菜を作っていかないとダメだな、と思った。