食リポで救える命があるそうです
・
・【弟子にしてほしい】
・
私がリュートさんに教えられて、いつも通り魔法の練習をしている時だった。
リュートさんの家の前に、誰かやって来て、こう叫んだ。
「リュートさん! 僕を弟子にして下さい!」
そう叫んだ主は、少年のような、青年のような、大体中学生くらいの大きさの子だった。
「誰だオマエは?」
とリュートさんがその少年に近付きながら言うと、
「僕はサン! 昔、リュートさんに一人でこの家に来ることができたら弟子にしてやると言われていたサンです!」
「……そんなこと言ったっけ?」
どうやら案の定というかなんというか、リュートさんは忘れているらしい。
でもサンくんはこう言う。
「言ったじゃないですか! 現にモンスターがいっぱいいるこの丘を一人で来たんですから認めて下さい!」
サンくんは腰に付けていた袋から、モンスターを倒した時に手に入る宝石をジャラリと見せた。
それを見たリュートさんは、
「まあ、強いは強いというわけか」
と感心すると、サンくんは首をブンブン横に振ってから、
「そうじゃなくて! 僕も弟子にして下さい! 否! 僕が代わりに弟子をやります!」
と高らかに宣言したので、今度は私が喋らないといけない。
「ちょっと、サンくん。私がリュートさんの正式な弟子なんだから、代わりとかは無いでしょ!」
「いいや! 僕が代わりに弟子します! 魔法で対決しましょう!」
「いやだから代わりである必要性が無いじゃん、一緒に弟子やればいいじゃん」
私としては弟弟子ができそうで、悪くは無い気持ちなのに。
そんな私の台詞には、頭上に疑問符を浮かべているサンくん。
いや何で弟子は一人という風習に縛られているんだよ、いやそんな風習あるの?
そんな私とサンくんの会話を聞いていたリュートさんが、こう言った。
「まあとりあえずサンの実力を見たいから、魔法対決でもしてみるか。創造魔法で良いモノを作れたほうが勝ちな」
それに対してすぐにサンくんが反応し、
「やったぁ! 僕が代わりに弟子になるぞぉ!」
と叫んだ。
いやだから、ううん、そこは別にいいや、創造魔法で対決ね、絶対勝てる、これは勝てる。
というかリュートさん、普通に私の得意な魔法で勝負させてくれて、完全に私に勝たせる気じゃん。
リュートさんったら……と思いながら、内心ニヤニヤしてしまった。
さてまあ、
「私と創造魔法対決ね! 絶対負けない! とりあえずリュートさん! 1回戦のお題をお願いします!」
何か絶対私の勝てる勝負だからテンション上がって、デカい声出たな。
リュートさんは私の声の大きさに少々面食らいながら、
「じゃっ、じゃあ、冷たいモノでいこうか」
冷たいモノ、ならば、と思って私はまず、アイスクリームを入れるような透明なガラスの器を出現させた。
じゃあこれからと思った刹那だった。
「はい! もう出した! それが冷たいモノですね!」
とサンくんが叫んだ。
いやいや、
「これは冷たいモノを入れる器だから」
「いいや! 対決始まってから出したモノだからそれが冷たいモノです! 絶対そういうことです!」
うるせぇー、やっぱりコイツ、子供だ、全然少年だ。
いやでも、
「これからだから! だってリュートさんは一個とは言ってないじゃん! 合わせ技だから!」
「それはズルいですよ! その器が貴方の冷たいモノですね! はい! 分かりました!」
「サンくん! 勝手にそう言い切るんじゃない! というかリュートさん! 合わせ技ありですよねっ?」
と私とサンくんでリュートさんのほうを見ると、眉毛を八の字にして困った表情をしたリュートさんが、
「いや合わせ技アリにしちゃうと時間掛かりそうだから、まあ全3回戦のつもりで始めたから1戦目のユイのターンはもうその器でいこう、かなぁ……」
何でここで面倒クサがりの一面を前面に出しちゃうんだ!
いやじゃあ! 1戦目は負け確定ということっ? いやまあ、後で盛り返せるから、いいか……。
「じゃあ僕が創造魔法で冷たいモノを出す番ですね! じゃあいきます! キンキンの! 真っ青なくらいの! 氷!」
キンキンの、真っ青くらいの、氷? ……何その抽象的な表現、それで何か冷たいモノが出るの?
と思っていると、サンくんの目の前には、製氷機で作った氷サイズの真四角の青い物体が出現した。
その青い物体は青すぎてちょっと黒く見えるくらいの青で、やけにスベスベ、黒光りしていた。
「何か、サンのヤツ、重そうだな」
リュートさんがアゴに手を当てながらそう言った。
青黒真四角を出したサンくんは頭を抱えながら叫んだ。
「しまった! ちゃんと冷たいと言えば良かった! 言わなくてもいけると何か思ってしまった!」
何でいけると思ったんだよ、と思いつつ、私はガラスの器をリュートさんに渡し、
「こっちのほうが割かし冷たそうですよね、清涼感あるし」
ハッとしたサンくんが青黒真四角をリュートさんに渡しながら、
「いや! こっちのほうが何か冷たそうですよね! 冷気を詰め込んでいそうですよね!」
リュートさんは両手にそれぞれのモノを持ちながら、
「これは、ユイのほうが冷たそうだな、ガラスの透明さがいいから」
なんたる細波決戦。
サンくんが思った以上に弱い、と思いつつ、
「じゃあリュートさん、2回戦お願いします。こことったら私の勝ちね!」
と言うと、サンくんが慌てながら、
「いやいやいや! 全3回戦なんですから、3回勝ったほうが勝ちですよ! そんなことあるはずないじゃないですか!」
「いや3回戦なんだから、先に2勝したほうが勝ちだよ、サンくん」
私はチラリとリュートさんのほうを見ると、リュートさんが、
「そうだな、全3回戦は2回勝ったほうが勝ちだ。そんな3回勝ったほうが勝ちなんて面倒なことはしないぞ」
それに対してサンくんは驚愕しながら、
「そんなことありますかぁぁああああああああ! わぁぁあああああああああ!」
と叫んだ。
何だこの少年、何かズレてるな、と思いつつも、まあいいやと思って、
「じゃあリュートさん、2回戦のお題お願いします」
「そうだな、じゃあ次は熱いモノで」
熱いモノか、じゃあまずは赤そうな器を出して……て、危なっ、また器で終わるところだった。
じゃあこのアイスクリームを入れるような、ちょっと御洒落な器に熱い食べ物出すか。
何だろう、どうせなら映える料理がいいな、よし、チーズフォンデュにしよう、と思ったところで、サンくんが、
「分かりました! これは先手が有利な対決だったんだ! 僕からいきます!」
と声を荒らげた。
いやこういうのは大体後手が有利だろと思いつつも、私はサンくんの創造魔法を待つことにした。後手のほうが有利だから。
サンくんは手に力を込めて、創造魔法を開始した。
「アツアツで! すごい! 本当! あれです! 岩です! こい!」
いや語彙どうなってんだよ、というようなサンくんのソレ。
サンくんが創造魔法で出現させたのは、製氷機で作った氷と同じサイズの小さな岩だった。
どう見ても全然熱そうじゃないし、そもそも溶岩が固まった黒い岩にしか見えなかった。
それを素手で拾い上げたサンくんが、
「ほんのりです……」
と残念そうに答えた。
いやほんのりでもすれば御の字だろと思いつつ、今度は私が創造魔法を開始した。
「とろとろアツアツのチーズフォンデュ、あえてクサみの少ない、誰でも食べやすいチェダーチーズを使い、白ワインで伸ばします。それを熱して作られたチーズフォンデュに合わせる食材は茹でて柔らかくした野菜、アスパラガスにミニトマト、ニンジンとカラフルに楽しみましょう。野菜の甘さとチーズのコクで、爽やかさの中に強い旨味がある、瑞々しい風にまろやかな香り、そんなディナー気分を召し上がれ!」
アイスクリームを入れる器にグツグツのチーズフォンディが入り、器のヘリに背もたれするように野菜を出現させた。
最初から野菜がチーズフォンデュに浸かっているような状態だけども、器が一つだけだから仕方ない。
リュートさんは嬉しそうに私のほうへ近付き、早速アスパラガスを掴んで、そのまま食べた。
もうアスパラガスにはチーズフォンデュが触れていたので、ちゃんと味付きだ。
リュートさんは嬉しそうに叫んだ。
「うまぁい! アツアツだし、うまい! 口の中がとろけるようだ!」
それを見ていたサンくんは私に岩を差し出しながら、
「まずそれぞれ相手のヤツを確かめ合いましょう!」
と言ってきた。
いや別に私はサンくんの岩、触らなくてもいいなぁ、と思いつつ、その場に突っ立っていると、サンくんは岩を持っていないほうの手でミニトマトを掴み、
「やわっ、えっ、あったかい、赤、ハッ、何かトロトロしたヤツ、ついてきた! えっ! えっ! なになにっ? はー! 何か伸びてくるぅ! わぁぁぁあああああああん!」
すごい喋りながら口に入れたな、と思って見ていると、
「おいしい! アツアツでおいしい! 焼き芋みたい!」
いや全然焼き芋と味違うだろ。
「何かがジュワッと出てきました! すごい! 伸びです!」
いやジュワッと出たのはミニトマトだし、伸びたのはチーズだろ。
「負けだぁぁぁあああああああああああああ!」
いやデカい声で負けを認めるんかい。
サンくんのことを見ていると、サンくんはなんとなしに手から岩を離した。捨てるんかい。
リュートさんは鼻高々に、
「どうだ! これが俺の弟子! ユイだ!」
と言いながら、私の肩を優しく叩いた。
別に頭ポンポンでも良かったんだけども。
まあいいや、とりあえず私は言いたいことが一つある。
「サンくん、君、何か語彙がおかしいよ?」
「ゴイって何ですか……?」
「言葉がおかしいというか、もっと正しい言葉を使わないと創造魔法はうまくいかないよ?」
「正しい言葉……だって、そういうのどこで習うかどうか分からないですし……」
そう寂しそうに俯いたサンくん。
あぁ、そうか、この世界、というか少なくてもあの村には学校が無いんだ。
でもそうだ、
「創造魔法自体は使えるし、モンスターだって倒せるくらい強いわけだから、言葉を学べば絶対強い魔法使いになれると思うよ」
「ど! どうすればユイさんみたいになれますかね!」
サンくんは顔を上げて、教えを乞うような瞳で私を見てきた。
「やっぱり言葉を一つ一つ大切に扱うことだと思うよ。抽象的に喋るんじゃなくて、もっと具体的に喋ったり」
この私の台詞こそ抽象的だなと思ったけども、サンくんは目を爛々と輝かせながら、
「分かりました! ユイさん! これからよろしくお願いします!」
いや!
「何か私が師匠になっちゃってる! そうじゃなかったでしょ!」
「ユイ師匠! お願いします!」
「完全に師匠って言っちゃったよ!」
とツッコんだところで、リュートさんがこう言った。
「いやでも確かに俺とユイが飢餓を救うための旅に出たら、村を助ける存在がいなくなるな。よしっ、サン、ユイから創造魔法のことをいっぱい教えてもらうように」
「リュートさん! 私が教えるんですかっ!」
「だって創造魔法使うのユイのほうが上手いし。サンの魔石見たらあれぐらいのサイズあれば大体のモンスターには勝てるってことだから後は創造魔法だけだろ」
サンくんは嬉しそうな表情をし、
「やった! 僕にも師匠ができたぞ!」
と言いながら、バンザイした。
まあ何だか解決した雰囲気なので、もうその流れに合わせることにした。
いやでも実際そうか、創造魔法を使うことは私のほうが上か。
でもそうやって認めて、ハッキリ言ってくれるリュートさんは優しいな。
そしてこの日から私はサンくんに正しい言葉を教える授業を開始した。
結局、あの”代わりに弟子をする”という台詞も言葉を間違えていただけということが後で発覚した。
普通に自分も弟子になりたいという意味で言っていたらしい。
・【弟子にしてほしい】
・
私がリュートさんに教えられて、いつも通り魔法の練習をしている時だった。
リュートさんの家の前に、誰かやって来て、こう叫んだ。
「リュートさん! 僕を弟子にして下さい!」
そう叫んだ主は、少年のような、青年のような、大体中学生くらいの大きさの子だった。
「誰だオマエは?」
とリュートさんがその少年に近付きながら言うと、
「僕はサン! 昔、リュートさんに一人でこの家に来ることができたら弟子にしてやると言われていたサンです!」
「……そんなこと言ったっけ?」
どうやら案の定というかなんというか、リュートさんは忘れているらしい。
でもサンくんはこう言う。
「言ったじゃないですか! 現にモンスターがいっぱいいるこの丘を一人で来たんですから認めて下さい!」
サンくんは腰に付けていた袋から、モンスターを倒した時に手に入る宝石をジャラリと見せた。
それを見たリュートさんは、
「まあ、強いは強いというわけか」
と感心すると、サンくんは首をブンブン横に振ってから、
「そうじゃなくて! 僕も弟子にして下さい! 否! 僕が代わりに弟子をやります!」
と高らかに宣言したので、今度は私が喋らないといけない。
「ちょっと、サンくん。私がリュートさんの正式な弟子なんだから、代わりとかは無いでしょ!」
「いいや! 僕が代わりに弟子します! 魔法で対決しましょう!」
「いやだから代わりである必要性が無いじゃん、一緒に弟子やればいいじゃん」
私としては弟弟子ができそうで、悪くは無い気持ちなのに。
そんな私の台詞には、頭上に疑問符を浮かべているサンくん。
いや何で弟子は一人という風習に縛られているんだよ、いやそんな風習あるの?
そんな私とサンくんの会話を聞いていたリュートさんが、こう言った。
「まあとりあえずサンの実力を見たいから、魔法対決でもしてみるか。創造魔法で良いモノを作れたほうが勝ちな」
それに対してすぐにサンくんが反応し、
「やったぁ! 僕が代わりに弟子になるぞぉ!」
と叫んだ。
いやだから、ううん、そこは別にいいや、創造魔法で対決ね、絶対勝てる、これは勝てる。
というかリュートさん、普通に私の得意な魔法で勝負させてくれて、完全に私に勝たせる気じゃん。
リュートさんったら……と思いながら、内心ニヤニヤしてしまった。
さてまあ、
「私と創造魔法対決ね! 絶対負けない! とりあえずリュートさん! 1回戦のお題をお願いします!」
何か絶対私の勝てる勝負だからテンション上がって、デカい声出たな。
リュートさんは私の声の大きさに少々面食らいながら、
「じゃっ、じゃあ、冷たいモノでいこうか」
冷たいモノ、ならば、と思って私はまず、アイスクリームを入れるような透明なガラスの器を出現させた。
じゃあこれからと思った刹那だった。
「はい! もう出した! それが冷たいモノですね!」
とサンくんが叫んだ。
いやいや、
「これは冷たいモノを入れる器だから」
「いいや! 対決始まってから出したモノだからそれが冷たいモノです! 絶対そういうことです!」
うるせぇー、やっぱりコイツ、子供だ、全然少年だ。
いやでも、
「これからだから! だってリュートさんは一個とは言ってないじゃん! 合わせ技だから!」
「それはズルいですよ! その器が貴方の冷たいモノですね! はい! 分かりました!」
「サンくん! 勝手にそう言い切るんじゃない! というかリュートさん! 合わせ技ありですよねっ?」
と私とサンくんでリュートさんのほうを見ると、眉毛を八の字にして困った表情をしたリュートさんが、
「いや合わせ技アリにしちゃうと時間掛かりそうだから、まあ全3回戦のつもりで始めたから1戦目のユイのターンはもうその器でいこう、かなぁ……」
何でここで面倒クサがりの一面を前面に出しちゃうんだ!
いやじゃあ! 1戦目は負け確定ということっ? いやまあ、後で盛り返せるから、いいか……。
「じゃあ僕が創造魔法で冷たいモノを出す番ですね! じゃあいきます! キンキンの! 真っ青なくらいの! 氷!」
キンキンの、真っ青くらいの、氷? ……何その抽象的な表現、それで何か冷たいモノが出るの?
と思っていると、サンくんの目の前には、製氷機で作った氷サイズの真四角の青い物体が出現した。
その青い物体は青すぎてちょっと黒く見えるくらいの青で、やけにスベスベ、黒光りしていた。
「何か、サンのヤツ、重そうだな」
リュートさんがアゴに手を当てながらそう言った。
青黒真四角を出したサンくんは頭を抱えながら叫んだ。
「しまった! ちゃんと冷たいと言えば良かった! 言わなくてもいけると何か思ってしまった!」
何でいけると思ったんだよ、と思いつつ、私はガラスの器をリュートさんに渡し、
「こっちのほうが割かし冷たそうですよね、清涼感あるし」
ハッとしたサンくんが青黒真四角をリュートさんに渡しながら、
「いや! こっちのほうが何か冷たそうですよね! 冷気を詰め込んでいそうですよね!」
リュートさんは両手にそれぞれのモノを持ちながら、
「これは、ユイのほうが冷たそうだな、ガラスの透明さがいいから」
なんたる細波決戦。
サンくんが思った以上に弱い、と思いつつ、
「じゃあリュートさん、2回戦お願いします。こことったら私の勝ちね!」
と言うと、サンくんが慌てながら、
「いやいやいや! 全3回戦なんですから、3回勝ったほうが勝ちですよ! そんなことあるはずないじゃないですか!」
「いや3回戦なんだから、先に2勝したほうが勝ちだよ、サンくん」
私はチラリとリュートさんのほうを見ると、リュートさんが、
「そうだな、全3回戦は2回勝ったほうが勝ちだ。そんな3回勝ったほうが勝ちなんて面倒なことはしないぞ」
それに対してサンくんは驚愕しながら、
「そんなことありますかぁぁああああああああ! わぁぁあああああああああ!」
と叫んだ。
何だこの少年、何かズレてるな、と思いつつも、まあいいやと思って、
「じゃあリュートさん、2回戦のお題お願いします」
「そうだな、じゃあ次は熱いモノで」
熱いモノか、じゃあまずは赤そうな器を出して……て、危なっ、また器で終わるところだった。
じゃあこのアイスクリームを入れるような、ちょっと御洒落な器に熱い食べ物出すか。
何だろう、どうせなら映える料理がいいな、よし、チーズフォンデュにしよう、と思ったところで、サンくんが、
「分かりました! これは先手が有利な対決だったんだ! 僕からいきます!」
と声を荒らげた。
いやこういうのは大体後手が有利だろと思いつつも、私はサンくんの創造魔法を待つことにした。後手のほうが有利だから。
サンくんは手に力を込めて、創造魔法を開始した。
「アツアツで! すごい! 本当! あれです! 岩です! こい!」
いや語彙どうなってんだよ、というようなサンくんのソレ。
サンくんが創造魔法で出現させたのは、製氷機で作った氷と同じサイズの小さな岩だった。
どう見ても全然熱そうじゃないし、そもそも溶岩が固まった黒い岩にしか見えなかった。
それを素手で拾い上げたサンくんが、
「ほんのりです……」
と残念そうに答えた。
いやほんのりでもすれば御の字だろと思いつつ、今度は私が創造魔法を開始した。
「とろとろアツアツのチーズフォンデュ、あえてクサみの少ない、誰でも食べやすいチェダーチーズを使い、白ワインで伸ばします。それを熱して作られたチーズフォンデュに合わせる食材は茹でて柔らかくした野菜、アスパラガスにミニトマト、ニンジンとカラフルに楽しみましょう。野菜の甘さとチーズのコクで、爽やかさの中に強い旨味がある、瑞々しい風にまろやかな香り、そんなディナー気分を召し上がれ!」
アイスクリームを入れる器にグツグツのチーズフォンディが入り、器のヘリに背もたれするように野菜を出現させた。
最初から野菜がチーズフォンデュに浸かっているような状態だけども、器が一つだけだから仕方ない。
リュートさんは嬉しそうに私のほうへ近付き、早速アスパラガスを掴んで、そのまま食べた。
もうアスパラガスにはチーズフォンデュが触れていたので、ちゃんと味付きだ。
リュートさんは嬉しそうに叫んだ。
「うまぁい! アツアツだし、うまい! 口の中がとろけるようだ!」
それを見ていたサンくんは私に岩を差し出しながら、
「まずそれぞれ相手のヤツを確かめ合いましょう!」
と言ってきた。
いや別に私はサンくんの岩、触らなくてもいいなぁ、と思いつつ、その場に突っ立っていると、サンくんは岩を持っていないほうの手でミニトマトを掴み、
「やわっ、えっ、あったかい、赤、ハッ、何かトロトロしたヤツ、ついてきた! えっ! えっ! なになにっ? はー! 何か伸びてくるぅ! わぁぁぁあああああああん!」
すごい喋りながら口に入れたな、と思って見ていると、
「おいしい! アツアツでおいしい! 焼き芋みたい!」
いや全然焼き芋と味違うだろ。
「何かがジュワッと出てきました! すごい! 伸びです!」
いやジュワッと出たのはミニトマトだし、伸びたのはチーズだろ。
「負けだぁぁぁあああああああああああああ!」
いやデカい声で負けを認めるんかい。
サンくんのことを見ていると、サンくんはなんとなしに手から岩を離した。捨てるんかい。
リュートさんは鼻高々に、
「どうだ! これが俺の弟子! ユイだ!」
と言いながら、私の肩を優しく叩いた。
別に頭ポンポンでも良かったんだけども。
まあいいや、とりあえず私は言いたいことが一つある。
「サンくん、君、何か語彙がおかしいよ?」
「ゴイって何ですか……?」
「言葉がおかしいというか、もっと正しい言葉を使わないと創造魔法はうまくいかないよ?」
「正しい言葉……だって、そういうのどこで習うかどうか分からないですし……」
そう寂しそうに俯いたサンくん。
あぁ、そうか、この世界、というか少なくてもあの村には学校が無いんだ。
でもそうだ、
「創造魔法自体は使えるし、モンスターだって倒せるくらい強いわけだから、言葉を学べば絶対強い魔法使いになれると思うよ」
「ど! どうすればユイさんみたいになれますかね!」
サンくんは顔を上げて、教えを乞うような瞳で私を見てきた。
「やっぱり言葉を一つ一つ大切に扱うことだと思うよ。抽象的に喋るんじゃなくて、もっと具体的に喋ったり」
この私の台詞こそ抽象的だなと思ったけども、サンくんは目を爛々と輝かせながら、
「分かりました! ユイさん! これからよろしくお願いします!」
いや!
「何か私が師匠になっちゃってる! そうじゃなかったでしょ!」
「ユイ師匠! お願いします!」
「完全に師匠って言っちゃったよ!」
とツッコんだところで、リュートさんがこう言った。
「いやでも確かに俺とユイが飢餓を救うための旅に出たら、村を助ける存在がいなくなるな。よしっ、サン、ユイから創造魔法のことをいっぱい教えてもらうように」
「リュートさん! 私が教えるんですかっ!」
「だって創造魔法使うのユイのほうが上手いし。サンの魔石見たらあれぐらいのサイズあれば大体のモンスターには勝てるってことだから後は創造魔法だけだろ」
サンくんは嬉しそうな表情をし、
「やった! 僕にも師匠ができたぞ!」
と言いながら、バンザイした。
まあ何だか解決した雰囲気なので、もうその流れに合わせることにした。
いやでも実際そうか、創造魔法を使うことは私のほうが上か。
でもそうやって認めて、ハッキリ言ってくれるリュートさんは優しいな。
そしてこの日から私はサンくんに正しい言葉を教える授業を開始した。
結局、あの”代わりに弟子をする”という台詞も言葉を間違えていただけということが後で発覚した。
普通に自分も弟子になりたいという意味で言っていたらしい。