食リポで救える命があるそうです

・【飢餓を救うため】


 私とリュートさんはついに、飢餓を救うための旅へ出掛けることにした。
 まず手始めに、馴染みのある、サンくんの住んでいるいつもの村にやって来た。
 地域に住み込み、そこで教えていくという形を取ることにした。
 ただこの村はもうサツマイモも教えているし、あとは食リポで簡単に肉料理を食べられるようにするだけだ。
 私はいろんなアレンジも効かせられるハンバーグがいいと思って、まずは目の前でハンバーグを出し、
「これを食べて味や香り、熱や雰囲気を覚えて下さい」
 村人たちはハンバーグをガツガツ食べている。
 もうただただ食べているような感じで、本当に覚えているかどうか一抹の不安を覚えた。
 その不安は的中し、私と同じようなハンバーグを出すことができる人は一人もいなかった。
 私の言葉を完コピして創造魔法を使っていた人もいたので、その人は私と同じハンバーグを出せると思っていたんだけども、全然ダメで、ハンバーグのような形をした、パサパサの大豆みたいな感じだった。
 どうやらいきなりハンバーグを作ることは難しいらしい。
 リュートさんは腕を組みながら、
「もっと簡単そうな料理に変えるか?」
「でもハンバーグは作れれば、中にチーズを入れたり、ソースの味を変えたり、いろいろバリエーションを増やせるんですよねぇ。サツマイモを主食にしてハンバーグを副食として食べていれば、ある程度は大丈夫だと思うから」
 それとも私がハンバーグを好きすぎているのか? ここをどうにか変えないといけないのか?
 とかいろいろ考えている時に、一つ案が浮かんだ。
「じゃあ食材から出して、一回みんなで作るところからやっていきましょう!」
 私はまず挽肉とタマネギ、卵にパン粉を出した。
 その挽肉は一旦軽く焼き、タマネギと卵は生で、パン粉も一つまみして、サンくんに食べてもらった。
「サンくん、味、覚えた?」
「はい! 挽肉は何だか噛み応えがあって、タマネギは辛くて涙が出そうで、卵は妙にまろやか、パン粉はパサパサしています!」
 飢餓を救うための旅へ出掛けるまでの間に、サンくんに言葉の勉強を教えていたので、それなりに芯を打つようになっていた。
 私はサンくんに創造魔法で食材を出してもらうことにした。
 サンくんは創造魔法を使い、それらの食材を出した。
 少々色が悪かったりしたけども、それなりの形にはなった。
 一応サンくんが出した食材の味見をそれぞれしてみると、ちゃんとその食材にはなっていた。
「サンくん、ここからはトライ&エラー、何回も味見して、完璧な食材になるように目指して!」
「分かりました! ユイ師匠!」
 サンくんには食材出しをやってもらい、私は私の出した食材で料理を実演することにした。
「それではハンバーグという料理を一緒に作りましょう」
 私はリュートさんと他の村人たちと、ハンバーグを作り始めた。
 こね方から始まり、火入れの仕方もしっかり教え込んだ。
 すると村人たちもどんどん上達し、最終的にはきちんとしたハンバーグが作れるようになった。
 あとはソース、ソースは多分ソースで出せるだろうと思い、まず私がデミグラスや和風おろし、オーロラにバター醤油ニンニクなどを出した。
 それの味見をしてもらって、創造魔法で出してもらって。
 そんなことをしていると、サンくんが、
「結構うまく食材出せるようになったんですけども、この食材ってハンバーグしか作れないんですか?」
「ううん、タマネギはただ丸焼きにするだけでも美味しいし、卵は目玉焼きにすればすぐ食べられるし」
「卵は昔食べたことがあるので知っていましたが、このタマネギというヤツも丸焼きにするだけで美味しいんですね」
 と会話したところで、リュートさんが、
「じゃあサツマイモも、すぐに創造魔法で食材として出していいんじゃないか?」
「それだと創造魔法を使える人しかサツマイモを出せなくなるので、その地に根付かないんですよ。誰でも育てれば食べることができるというのも重要ですから。タマネギも畑で作る食材なんですが、サツマイモのほうが簡単なので、とりあえずこの旅の一周目としましてはサツマイモだけを伝えていくほうが効率的だと思います」
 それにリュートさんも納得して下さった。
 そんな感じで、ハンバーグの伝達は終了し、私とリュートさんは次の街へ行くことにした。
 リュートさんはサンくんにこう言った。
「今日からこの村を守るのは、サン。オマエだ。俺たちが旅から戻ってきた時、より素晴らしい魔法使いになっていると嬉しいな」
「はい! 分かりました! リュートさん! ユイ師匠!」
 いやリュートさんも師匠でいいだろと思ったけども、よくよく考えれば何も教えてはいなかったから師匠枠は私だけか。
 リュートさんはちょっとだけ首を捻っていたけども、サンくんはそんなところまで正しい言葉が使えるようになっていたので、それはそれで良かった。
 この調子で私とリュートさんはどんどんサツマイモとハンバーグという二枚看板を教えていった。
 街によっては『味が優しい』などは勿論『温かい』や『冷たい』という初歩的な部分まで、ちょっとずつ勘違いして言葉を使っていることが発覚する街もあり、四苦八苦、悪戦苦闘しながらも、パターンを掴んで教えていった。
 そんなある日だった。
 私とリュートさんが道中を移動している時、急に魔法の銃撃がこちらへ向かって飛んできたのだ。
「危ない!」
 すぐさま私をかばうようにバリアを張ったリュートさん。
 一体何なんだ、明らかに悪意を持った攻撃に私は心臓をバクバクいわせていると、草木の陰からあからさまに悪そうな連中が顔を出した。
 その悪そうな連中の子分みたいなヤツが、鎖を体中にじゃらじゃら巻いた親玉みたいなヤツにこう言った。
「コイツですぜ、うちらのシマを荒らしている連中は」
 それに対してリュートさんが、
「何の話だ。俺たちは何も邪魔していないぜ」
 ここで親玉みたいなヤツが喋りだした。
「オマエら、最近食料の伝達みたいなことをしているだろ。迷惑なんだよ、痛い目に遭いたくなければやめろ」
「食料の伝達……サツマイモとハンバーグのことか、それの何が迷惑なんだよ」
 いや食料の伝達という、せっかく良い言い方してくれているんだから、そのままいけよ。
 サツマイモとハンバーグという、ちょっとバカっぽい言葉の羅列に戻すなよ、と心の中でツッコんでいると、親玉みたいなヤツが、
「我々はこの世界の食料を牛耳っている組織だ。そこのバランスが崩されると旨味が無くなるんだよ」
 私は正直ビックリしてしまった。
 まさか食料を牛耳っているような組織があったなんて。
 そうか、飢餓は作られた飢餓だったんだ。
 つまりこの組織を壊滅させれば流通が上手く回るということか。
 リュートさんは真剣な表情でこう言った。
「いや、いろいろ食べられたほうが旨味の種類、多いだろ」
 いや!
「その味直結の旨味じゃないです! 組織としての旨味という意味です! 自分に有利な悪いことができるという意味です!」
「分かりづらいのかよ」
 そう吐き捨てるようにツッコんだリュートさん。
 いやそんなカッコイイ感じに言われても。
 ほら、悪い組織の人たちもちょっと引いてる。話が通じなくて引いてる。ちょっと私も恥ずかしい。
 でもまあとにかく、
「リュートさん、この悪い組織を壊滅させれば、伝達の旅をしなくても良くなるかもしれません」
「なにっ? そっちのほうが楽だな。じゃあ圧勝してやる」
 そう言うと、リュートさんから光の玉を出し、その光の玉は敵にホーミングするように飛んでいった。
「「「うわぁぁぁあああああああああああああああああああ!」」」
 全部直撃し、その悪い組織の連中はその場に倒れ込んだ。
「で、このあと、どうすればいいんだ?」
 と言いながら私のほうを見たリュートさん。
「えっと、多分、気絶させないように倒して、組織の本部を聞き出せば良かったんじゃないんですか……?」
「あっ、でも気絶……これ、ケガさせず、気絶だけさせる光魔法だから……」
「そうですよね、私も対人間用にリュートさんから教えて下さったので、はい、分かります……」
 沈黙する私とリュートさん。
 その沈黙を破ったのは、リュートさんの柏手一発だった。
「よしっ、どうせまた襲ってくるだろうから、その時に上手くやろう」
 そう言ってまた移動し始めたリュートさん。
 私もまあそれでいいかと思って、ついていった。
 いやあいつらが起き上がるところを待っていたほうが本当は良かったかもしれない。
 でもリュートさんはこらえ性があんまり無いしなぁ。
 次の街はリホウ。
 ここは発展した街なので、多分創造魔法を最初から上手く使える人も探せばいるはず。
 まあ探すことが一苦労なんだけども。
 まずは門番の人にこういう事情でやって来ました、と説明すると、すぐさま上と掛け合ってもらえるみたいな感じになった。
 その時もやっぱりリュートさんが有名人で、話もとんとん拍子だった。
 いろいろ門番の人が掛け合ってくれた結果、明日になれば、畑として使える場所の用意と創造魔法が得意な人を派遣してもらえることになったので、今日は一日リホウを見て回ることにした。
 久しぶりに二人きりでデートみたいだなと思っていると、目の前で泣いている男の子がいた。
 どうやら迷子らしい。
 リホウは迷子多いな、と思いつつ、私とリュートさんは男の子に話し掛けた。
「どうしたの? 迷子かな?」
「パパがどこかに行っちゃったよー!」
「じゃあお姉さんとお兄さんが一緒に探してあげるから!」
「ありがとう!」
 そう言って私の腰に抱きついて来た男の子。
 可愛いなぁ、と思っていると、リュートさんが男の子を私の腰から引き離し、
「男はそんな簡単に抱きついたらダメだぞ」
 と言った。
 何だろう、嫉妬してくれているのかな、でも男の子に嫉妬って、いやまあ嬉しいけどもね、とか思いながら、パパ探しを開始した。
「多分こっちだと思うんだ」
 そう言いながら、私とリュートさんを連れ回す男の子。
 こっちだと分かっていたのなら、一人で探せばいいのにとも思ったけども、やっぱり心細かったのかな。
「多分こっちかも」
 と男の子が言ったところで、なんと前方にまた泣いている別の女の子がいた。
 まずは男の子のパパ探しと思っていたけども、その女の子があまりにもわんわん泣くので、私とリュートさんは話し掛けることにした。
「どうしたんだ? 迷子か?」
 そうリュートさんが言うと、女の子が、
「何かママみたいな人が向こうに歩いていったの!」
「じゃあ追いかければいいじゃないか」
「でも一人だと何だか怖くてぇー!」
「じゃあすぐ俺がママの元へ連れていく! そこで待っててくれ!」
 と言って、女の子を拾い上げ、風魔法で移動し始めた。
「いたら指差せよ!」
 と言いながらリュートさんは飛んでいってしまった。
 じゃあ私はここで男の子と一緒に待つかな、と近くにあったベンチに座ろうとしたその時だった。
 私は後ろから誰かに抱きつかれた。
 またあの男の子か、と思ったけども、妙に大きい。
 私の肩に腕を回して、しっかり抱いている。
「えっ」
 私は振り返ると、そこにはリュートさんくらいの身長でガタイの良い男性がいて、耳元でこう言ってきた。
「俺たちの組織に来てもらう」
「ちょっと待ぁ」
 と叫ぼうとしたところで、私は急激な眠気を感じた。
 薄れゆく意識の中で、私はあの男の子が無事かどうか目で探した。
 しかし男の子はどこにもいなくて、そして私は。
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