好きだよ。。。
「つぐみ先輩ぃぃ・・・」

その日の終業時間、真澄が大量の書類を持って泣きついてきた。

「どうしたの?」

真澄はいつも通り、同僚とおしゃべりしながらのんびりと仕事していたというのに。

「この書類、今日中に入力しなきゃいけないそうなんです。でも、今日は、父の誕生日で、どうしても定時で帰らなきゃいけなくて」

「で?」

「この仕事、半年前までつぐみ先輩がやってましたよね?先輩にしか頼めないんです」

涙ながらに訴える。この量だと、軽く9時まではかかりそうだ。断ってしまいたい・・・が、この仕事は私が引き継いだものだ。ばしっと断れない自分が嫌いだ。でも、これと言って、予定もないし・・・彼女、ホントに困ってるみたいだし。

「・・・ふぅ~。分かったわ。でも、今度から真澄ちゃんも就業中に終えるように調整するのよ?」

「はぁ~い、わっかりました。よろしくお願いしまぁす」

ホントに、分かっているのかどうなのか。ひらひら、と手を振って退社する真澄を見ながら私は思った。大量の書類を前に、ため息をついた。とりあえず、カフェラテでも飲んでひと息つこう。

自動販売機があるのは、9階の休憩室兼カフェテリアだ。あったかいカフェラテを1本、買っていると香苗に声をかけられた。

「お疲れさまです、つぐみさん。もしかして、残業ですか?」

「あら、なんで分かったの?」

香苗は、ちょっと言いにくそうに眉をしかめた。

「・・・お父さんの誕生日なんかじゃありませんよ」

「えっ?」

「つぐみ先輩への、嫌がらせです。お人よしのつぐみ先輩の性格を利用して・・・許せない」

「・・・もしかして、朝言ってた、翔太君のことで?」

「です」

「そんな・・・」

「彼女、ねちっこい性格してますから、気を付けてくださいね。じゃ、お先に失礼します」

聞きたくなかった。真澄がうそをついてまで私に残業をおしつけるなんて。明日、どんな顔で真澄と会えばいいのだろう。


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