飴色溺愛婚 ~大胆不敵な御曹司は訳ありお嬢様に愛を教え込む~


「怒る? 俺が千夏(ちなつ)に怒らなきゃいけないようなことがあったか?」

 私の言っている事が分からない、(かい)さんはそんな表情をしている。先ほどの私の言動に腹を立てている様子もなく、静かに私の答えを待っているようだった。
 こんな風に私の意見を聞こうとしてくれた人は柚瑠木(ゆるぎ)兄さんだけ。それでも離れて暮らす彼に頼ってばかりも申し訳なくて、距離をとるようにしていた。
 こんな時、私はいったいどうすればいいの?

「私はこんな性格だからあの屋敷にいる時は何度も叱られました。よく……不愉快だからお前は喋るな、と」

 最初は喋り方かと思い綺麗な言葉使いを心掛けた、それで駄目ならと丁寧な話し方……いろいろ工夫しても、結局同じように家族を苛立たせてしまうだけで。
 私の言葉が不愉快なのではなく、私自身がそうなんだと理解するまでさほど時間は掛からなかった。

「……俺はその鈴の音のような千夏の声が好きだし、君の話を聞くとこっちまで明るい気持ちになれる。それに、千夏の良さもあの家の人間より分かっているつもりだ」

「櫂さん……」

 真っ直ぐに私を見つめる瞳に嘘は無いと思う。でもずっとあの家と家族に縛られてきた私は簡単な事に気付けていなかった、今まで私の価値を決めてきたのはずっと父や兄姉だったから。
 
 ……でも、櫂さんはあの屋敷の人たちとは違う。

 私を千夏という一人の人間として見て、そして櫂さんの妻として大切に扱ってくれる。私の言葉も存在も何一つ否定することなく、両手を広げるようにしっかりと受け入れようとしてくれる。
 それがどうしようもなく胸の奥をムズムズさせる、嬉しいような恥ずかしいような気持ちでいっぱいになった。


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